ささみさん@がんばらない 3 / 日日日

ささみさん@がんばらない 3 (ガガガ文庫)

ささみさん@がんばらない 3 (ガガガ文庫)

「わたしたちの歴史を、後悔なんてしないで、神様」

2巻で頑張りすぎて、自分の部屋にたてこもってしまったささみさん。そんなささみさんが展開した天岩戸の結界を攻略して、ささみさんの部屋への侵入を試みるお兄ちゃんと邪神三姉妹、な感じで始まる第3巻。
ささみさんのひきこもりライフを描いた物語のようでもありながら、その裏では思いのほかしっかりとしたストーリーが展開していて、それが予想外の展開を見せたりする。そんな物語は、どこか足場がないような、でもふわふわしているのにしっかりしているような、不思議な読感があります。
ささみさんの日常がシームレスに非日常につながっていたり、極個人的な事柄がすぐ隣で神々が繰り広げる日本とその歴史を巻き込んだ物語につながっていたりと、常識と非常識の境界すらもあって無いかのごとく行き来する不思議なスケール感。できることもできないことも、正しいことも正しくないことも、定義が無いというか、これはこれという決めのない曖昧であやふやで何でも取り込んでいくような在り方は、日本神話をベースにしているこの作品らしいのかなとも思いました。
そして物語的には、ささみさんにとって敵となる組織が出てきたり、過去をさかのぼってお母さんと和解したり、ささみさんが自分の決意を固めたりと、次の展開への布石が打たれていった感じです。過去を遡っていく中であれほど絶望的に見えた母娘のしこりが少しづつ溶けていくような展開や、ひきこもったささみさんを邪神三姉妹やお兄ちゃんが心配して無理矢理にでもその心の扉を開こうとする展開には、話しあって触れ合って和を以て貴しとなす、やっぱり日本的なものがあるのかなとも思ったり。
そしてささみさんの決意は、シンプルにカッコよかったです。望む望まないに関わらず生来与えられた身に余る力、そしてそれに縛られて、頑張らざるを得なくなって、追い詰められて逃げ出した過去。そんな過去と向き合って、自分の持つ特別な「ちから」とも向きあって、自分で考えて自分で選んだ道。弱くて小さくて、一人きりじゃできなくても、みんなと一緒にもう一度頑張るために自分の力で少しづつ歩みだすささみさんは、それでも頑張り屋の強い子なのだと思うのです。
家庭に問題を抱えた小学生の女の子の視点からたまとの交流を描いた特別編でも感じたのですが、この作品はささみさんにしても、ささみさんのお母さんにしても、頑張らざるをえない立場に置かれて、無理をして頑張ってしまう人たちの物語なのかなと思います。そんな後ろ向きで、でもひたむきなところには凄く共感ができるので、できればこの作品が、そうして疲れてしまった人たちに救いを与えてくれるような物語になってくれればいいなと思いました。
それから蛇足になりますが、おっさんな部分を残しながら純真な子供になっているバグったつるぎは普通にキモいと思います!
そんな感じで楽しめた一冊。お兄ちゃんの正体から悪徳オカルト結社アラハバキの謎など、思いのほかたくさんの伏線が張られて、この先の展開も楽しみに。私はやっぱり、このシリーズが好きだと思いました。