トカゲの王 1 ―SDC、覚醒― / 入間人間
- 作者: 入間人間,ブリキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
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自分は特別だと思い、世界を変えると嘯き、非日常に憧れる。そんな正しく中学生な少年五十川石竜子は、眼の色を自在に変える「だけ」という異能をもった少年。家にある事情を抱えていて、いつものように深夜に廃ビルで過ごす彼が、そこでまさしく非日常である異能の殺し屋たちの争いにまきこまれるという話はまさにテンプレなのですが、そこから先の展開の容赦の無さは作者らしいというかなんというか。
見蕩れるような派手な展開も、全てを吹き飛ばすようなカタルシスも、いわゆる中二的な格好良さはそこにはなくて、ひたすらに繰り広げられるのは理不尽な暴力が泥臭く振るわれるような世界。特別な異能をもったキャラクターはいるものの、基本的にはボロボロになりながら撃つ、刺す、殴る。そして肉が抉れ、血が流れるようなバトルばかり。そして主人公たる石竜子の能力は、一時のハッタリにしかならず、彼は弱いものとしてひたすらに追い詰められます。非日常を望んでいながら、実際に巻き込まれると恐怖と痛みに泣き喚き、生き延びようとみっともなくあがく、その姿は情けなくも等身大で、だからこそ読んでいて痛いものがあります。
1巻としてはプロローグ的な内容で、キャラクターの紹介、背景の紹介、そして石竜子の決意というものが描かれているのですが、内容の大部分を廃ビルで追い詰められる石竜子が占めているのでちょっと読んでいてくどいような感じも。切迫感のある文章で描かれるそれ自体は思わず惹き込まれるような迫力があるのですが、いかんせんずっとそのテンションが続くので読んでいて疲れるところもありました。
石竜子以外のキャラクターでは、打って変わって異能者らしい異能者であるカワセミ、そして石竜子の両親がハマりこんだ教団で神として崇められる少女、異能を持たない殺し屋のナメクジといったところが今後もどう動いていくのか注目かなと思うのですが、誰よりインパクトに残ったのは巣鴨涼という少女。
小学生の頃の石竜子とのエピソードも廃ビルでの行動や言動もとにかく異様。何かを考えてるようで何も考えずに動き、その価値観には他人がどう思うのかはまるきり抜け落ちて、そこにあるのは自分自身の基準だけ。「お金持ちだから」が口癖で他人を駒のように動かし、容姿はやたらと美人で露出過多という、なんとも強烈なキャラクター。敵味方の概念からすら外れてぶっ飛んだこの少女がヒロインな辺りこの作品は色々大丈夫なのかなと思いつつも、何の力にもならないはずの能力を使って石竜子が仕掛けた勝負の行方が気になる1巻でした。