【小説感想】ツインスター・サイクロン・ランナウェイ / 小川一水

 

「テラさんが助かるかもしれないのに、怖いなんて一ミリも思わないです」

当代切ってのSF作家が送り出す、ハイスピード宇宙漁業百合SFエンタメ。少し昔のめちゃくちゃ出来の良いSFアニメ映画を見たような爽快感のある、最高に面白い一冊でした。

もうキャラが良くて設定が良くてお話が良くて、そりゃあ満点ですねという感じです。綺麗にまとまったお話は個人的に物足りなく思うことが多いのですが、まとまりながら全方向にハイレベルだともう流石としか。

まず主役の2人のキャラクターが良いです。他の氏族から単身やってきた強気で勝ち気で小柄なダイオードと、お見合いに失敗してばかりだった空想しがちでおっとりした大女テラ。2人の出会いから物語は始まるのですが、とにかく掛け合いのテンポが良いです。ダイオードが丁寧語のようでスラング混じりになるのも好き。そしてこのダイオード、物怖じせず切ってみせる啖呵とは裏腹に脆いところがあって、それがどこか図太さのあるテラと相性抜群。2人とも普通には認めてもらえない特殊な才能があって、命をかけた漁に2人で出る中、お互いを補い合える、まさに運命共同体となっていくのがとても良かったです。それでいて、ダイオードには不安と引け目があり、テラは自分自身を縛るものを分かってなくて、お互いの本心は隠していたり見えていなかったり。それがクライマックスで危機の中でようやく通じ合うのが最高ですし、自由を目指して外へと飛んでいく物語の方向に、最後ぴたりとはまるのが素晴らしかったです。

そして設定も、巨大ガス惑星での宇宙漁業って何? とまず思うのですが、濃いガスの中を周遊する魚のような物を、精神感応で形を変える巨大な粘土の船に乗って、網を広げるデコンパと舵を握るツイスタのペアで捕らえる宇宙漁業が、読むほど魅力的に思えてきます。そして、そうやって暮らしている辺境惑星にたどり着いた周回者(サークス)たちの暮らしと文化も活き活きと魅力的に書かれていて、この世界の生活と社会をしっかりと感じさせてくれるのが良かったです。

ストーリーは王道で、家父長制の辺境の船団の中でレズビアンカップルが自由を求めて闘う話。というよりも、色々なものを振り切って、2人がついにはそこにたどり着くという話です。そういう意味では最近の百合というよりは、少し昔の話という印象。漁は夫婦で行うものと定められた掟の中で、女2人のペアは当然に睨まれる訳ですが、実はサークスの初期にはという、原型となった「アステリウムに花束を」収録短編からの追加部分も物語にとてもハマっていました。

そして何が良かったってスピード感。とにかくわーっと喋る二人の掛け合いも、展開も激しい漁のシーンも、ものすごくスピード感があって、それでいて細かいところまで丁寧で綺麗に流れていくのが、読んでいてとても気持ち良かったです。この体感速度と、鮮明に映像で浮かぶキャラクターや情景は、アニメ映画にぴったりだなと。ニッチなテーマですが、きっと最高に面白くなるので、誰か映画化してくれないかなと、そんなことを思いました。傑作です。