なれる!SE 7 目からウロコの?客先常駐術 / 夏海公司

他の人の感想を読んで怖くてしばらく読めずにいた一冊。せめて会社が休みの間にと読んだのですが、噂に違わぬホラーでした。これはホラー。
そんな今回は客先常駐。しかも大赤字プロジェクト絶賛デスマーチ中の補充要員に放り込まれた工兵と室見さん。撤退した前の会社はケンカ別れで引き継ぎもなく発注元担当者は仕様についてはちんぷんかんぷん。この時点で絶望。こんな仕事はさすがにしたことはありませんが、周辺の仕事をしているというか、容易に想像がつく範疇での出来事が描かれていて胃が痛いです。
そんな訳で今回は室見さんと工兵の関係とか、そういう部分は全く顔を出すこともなくひたすらブラックな現場が描かれるという一冊。タコ部屋のようなプロジェクトルーム。発狂していく周りの人たち。厳しすぎて身動きの取れないセキュリティ。うまいことやってとしか言わずできなければ文句を言う担当者。プロパーと(ほぼ)派遣の間に存在する絶対の溝。うずたかくつまれてとっかかりさえ掴めない残課題。理不尽に埋め尽くされたようでいて、けれど表向きはビジネス的というか、当たりも良くそれなりに整っているように見えて、ちょっと手を突っ込むとでるわでるわこの状況というが、あまりにもリアルで、リアル過ぎて……。
何が悪いってこの話、とにかく赤字プロジェクトなのが悪いのです。お金がない、けれど約束した以上顧客の求めるサービスはてきょうしなければならない。既に破綻した命題をどうにかしなくてはならない時にプロジェクトはどうなってしまうのか。大手故にセキュリティは緩められない(リスクがある以上当然)。お金は無いが作業は膨大。それでも鞭打てば下流は崩壊していく。崩壊したところに穴埋めをすればするほど、知識がリセットされてジリ貧。
そんな状況でリーダーやらされて、優先順位で切り捨てを始めれば、たぶん大濠のやっていることは至って普通だと思います。あまりにも技術理解がないので状況に火に油を注いでるとはいえ、元々この立場の人間は底が専門ではなくお金周りや社内調整がメインのはずですし、余裕がなさすぎて色々見えなくなったいるだけ、という気も。たぶん、普通のプロジェクトであれば、それほど無能じゃないとも、思うのが辛い……。
客先のヤクザな担当さんも顧客としては当然の要求をしているだけですし、何が読んでいて苦しいって、何もおかしくないのです、これ。こういう状況でこういうプロジェクトならこうなるという、でも営業として受けざるを得なかった案件であることも示唆されて、いよいよ憤りの持っていく場所が無いという。あそこでもう少しうまくやれていれば、の積み重ねの結果こうなっちゃった、みたいな。そうなるともう、これがおかしくない業界の常識というか形態の問題な気もして、うーん。
そんな中で今回工兵が挑んだのは撤退戦。藤崎からの少ない情報でハッタリかまして、最低限の利益を確保しての撤退はさすがだしよくやったと思いますが、もうそれは一エンジニアの仕事ではないよねと思ったりも。このお話、更に酷いことに最後にある真相が明らかになって、それがこの作品をさらにホラーにする裏テーマでもあるのですが、その中で重要人物として浮かび上がるのが貝塚という女性、エンジニアというスタート地点から「人売り」を目指したこの女性に近い立ち位置に工兵はいるという気はします。
室見の技術屋としての絶対の矜持。それは今回の行動、たとえ其それが倒れるまでの奮闘であれ、一矢報いる手段であれに表れていて、それを工兵は目指したいと思っていて、けれど工兵がこの役回りになるのはそれだけではこの世界生きていけないことの裏返しでもあって。そうすると室見と正反対のスタンスに立つ貝塚という女性の存在は、この話だけでは終わらない重要な位置を占めてくるのかなと思ったり。
そんなところもあって、やっぱりこの先が気になってしまう7巻ではありました。しかしもう怖いもの見たさに近いな、これ……。