現代詩人探偵 / 紅玉いづき
読んでシンプルに面白い小説ではないと思います。謎を解き明かしてスッキリするようなミステリでもないですし、探偵を始めとするキャラクターの魅力だとか、そういう方面のエンタメ性が特段高い訳でもない。でも、これは切実な小説だと思うのです。
かつてSNSを介して開催された詩人たちのオフ会。10年後に再会を果たしたのは9人のうち5人で、4人はすでにこの世を去っていた。主人公は探偵として、いったんは自殺なり事故なりで処理された、その死の本当の理由を暴こうとします。それは真実を明かすことが果たして幸せかという探偵の命題と向き合うことであり、ただ、彼にとって解き明かしたいのは誰がでも、どうやってでも無い。そこまでして解き明かしたいのは、彼らの死と詩がどのように結びついていたのかだけ。だから、詩人で探偵。そうまでしても向き合わなければならない理由が、彼にあったということ。
最初から最後までこの作品の中心にあるのは詩で、でも多分、これは小説でも音楽でも絵画でも演劇でも同じものなのかなと思います。直接的に生きていくことに関わらないはずものに対して、引き寄せられ、囚われ、どこまで迫れるのかともがいて、そのために何を犠牲にできるのか、何を傷つけられるのか、みたいな。
だからこれは、読者に対して、あちら側に踏み込んだ人であるのか、こちら側でまるで真っ当であるかのような顔をしている人であるかを試すような作品になっていて、また、あちら側の業というものに手を伸ばしていくような小説だと感じました。そこにある何かはこちら側の私にはわからないけれど、そこに確かに何かがあって、その手触りを少しだけでも感じられるような、そういう。
振り切ってしまったり、何かもっともらしい結論は出すことはなく、作品としてはもやもやしたまま終わるのですが、だからこそとても真摯で、切実な小説なのだと思います。
あと、お話としては3章が好きです。明かされた2人の関係性が好きというのはあるのですが、生きていて欲しかったと言いながら、責任が、証が欲しいと言って、更に返す刀で死んじゃだめだよっていうの、こう、凄い良いなって。