【小説感想】父親を名乗るおっさん2人と私が暮らした3ヶ月について / 瀬那和章

 

 シングルマザーの母に育てられた高校2年の由奈。ただ1人の家族だった母を病気で亡くした彼女の前に、自分が父親だと名乗るおっさんが2人現れ、親戚たちに厄介払いさっれるように由奈は後見人になったおっさんたちと暮らすことになり……というお話。

自称父親のヤンキー系おっさんと、眼鏡のエリート官僚風のおっさん。前向きな反面緩かった母親を反面教師にきっちりした性格に育ち、困ると男に頼る母を嫌ってもいた由奈は、突如現れたおっさんたちにも当たり前ですが反発し、自分の力で生きていこうとします。けれどその視野の狭さと頑なさを、おっさんたちと母親の思い出から浮かび上がってくる知らなかった母親の姿が、そしておっさんたちと暮らしていく日々が少しずつ変えていって。

設定的にはもっと刺激的にだってできるような話だと思います。でもこの物語は由奈の気持ちと、母親やおっさんとの関係を丁寧に丁寧に追っていきます。自分に見えている他人のあり方なんてほんの一部で、失われるものもあれば生まれていくものもあって、そういう世界に人は人と関わりながら生きている。きっと、家族にだってなれる。言葉にすれば陳腐にもなるようなことを、折り目正しく、優しい目線で、しっかりと物語に組み上げていく、真摯で魅力的な作品でした。

とにかく、人間とその関係性に対しての信頼感が根底にある話だと思います。結果的に悪くはたらくことはあっても、悪人はいない物語というか。おっさん2人も、母親も、一見すると反発したくなるけれど、新しい一面が見えてくる度に好きになっていけるキャラクター。終盤に登場するある人物も、腹は立つけれど、彼なりに筋を通そうとした結果だというのは分かる。そういうところが作品の空気感を作っていて、この世界も捨てたもんじゃないね! という、誰かを信じたくなるような読後感を生み出しているのかなと思いました。