多重心世界 シンフォニックハーツ 上 独声者の少年 / 永森悠哉

スニーカーの新人さん。新人6タイトルの中でこれだけ決め打ちしてみました。
話としては、身分制度の底辺でくすぶっていた少年が実は選ばれし者で、反政府ゲリラの人たちに「貴方を探しに来た」と言われる王道パターン。SFっぽい世界観もあわせて、なんだかスターウォーズを思い出しました。主人公のソロがアナキン。設定として独特なのは、舞台となる惑星が多声者と呼ばれる多重人格者達の惑星で、しかも人格の数に応じて階級が決まってるというもの。これによって人格の一つしかない独声者の主人公ソロとソロが守ろうとする少女カノンは差別を受けています。このあたりの世界設定なんかはなかなか面白いですし、興味をそそるに十分です。
話のほうもベタな展開ながらテンポ良く進むのが非常に好印象。説明の分量も適当かと。設定もキャラクター数も多いので、もっと細かい説明やそれぞれの物語を盛り込んだ方が面白くなるような気はするのですが、これ以上細かい部分に立ち入ると設定の粗やキャラクターの定型な部分が表面に出てきちゃいそうなので、その辺を考えさせないこの位のスピード感でどんどん飛ばしていったほうがいいと思います。設定に関しても、ほとんどが多重人格ということで爆発的に増えたキャラクターも、説明がそこまで不足しているという感じは受けませんし。
それにしたって主要キャラクターの行動原理や心理描写はもう少し掘り下げて欲しかったとか、展開がかなり強引で都合が良すぎるとか、色々文句もありますが、十分楽しかったのでその辺はいいや。カノンの扱いは「物語の都合」を強く感じてちょっとどうかと思いましたが。あと、描写がアニメの映像が頭に浮かぶような感じで良いです。キャラではリリンがツボでした。でもこの設定だと、異常多声者は収容されてもしかたないよなぁ・・・・・・。
そしてラストで明らかになるこの星に関する真相。正直この急展開は予想を超えました。プラスにもマイナスにも転びそうなこの展開をどうもって行くかが勝負の分かれ目な気がします。何はともあれ下巻に期待。
満足度:A-