『クロック城』殺人事件 / 北山猛邦

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

メフィスト賞受賞の「物理の北山」デビュー作。
北山作品を読むのは『アリス・ミラー城』、『ギロチン城』に続いて三冊目なのですが、世界観や作品の雰囲気としては、その中でも一番良かったです。
薄い霧に覆われたような雰囲気の終末に向かう世界の中で、どこか輪郭のおぼろげなキャラクター達が織り成す物語というあたりがとても好み。主人公であるミキの冷めた感じや、ナミのフワフワとした存在感の薄さなども併せて、どこか幻想的な雰囲気が作品を包み込んでいます。全体の中から浮き出てくる幽霊のような存在である<ゲシュタルトの欠片>、現在過去未来の時計の置かれる『クロック城』という舞台、時間に関わる病を持ったドール家の血筋、といった要素要素がなんだかいちいち素敵。
そんな中で起こる事件は、隔離された城の中で起きる殺人事件という直球のミステリ。特異な舞台設定と、終末に向かう世界という設定の中で進む物語はなかなかに魅力的。
ただ、どうにも幻想的な作品世界と、地に足のついたミステリの部分がミスマッチな気がします。ミスマッチさ自体は北山作品全般で感じるのですが、雰囲気の気に入ったこの作品だと特に。どうしてその部分だけ妙にロジカルだったり、物理的だったりするのかと。ラストに向けて謎が解かれていく過程も、驚きの真実にびっくりと言うよりは、急すぎて置いてけぼりをくらうような感じを受けました。
とても好きな部分と、いまいち好きになれない部分が両面ある感じで、何かもやもやしたものが残った小説でした。
満足度:B−

以下ネタバレ

時計を使ったトリックに関しては、最初に城の外観図が出た時にそんな気がしてしまっていたのであまり驚けなかったのがちょっと痛かったです。あ、こことこことここで繋がるんじゃ……みたいな。
そしてラストの展開は何が何やらな感じで、ちょっと理解が追い付かなくて残念。<ゲシュタルトの欠片>が何なのかかや、ナミは一体何者だったのか、世界の終わりとは何だったのかといった部分は、解釈次第では答えが出る……のかな?
それはそういうものだと理解するのもいいのですが、ミステリ部分でロジカルな解が示されているだけに、その部分にも何か答えがあるのではないかとどうにも勘ぐってしまいます。