黄昏色の詠使いⅤ 全ての歌を夢見る子供たち / 細音啓

本当に優しくて、この上なく綺麗な物語でした。
Episode.1のクライマックスということで、クルベルク研究所を舞台に、ほぼオールスターなキャラクターが登場。ミシュダルと灰色名詠による一連の事件、そしてクルーエルの心に宿ったアマリリスについての物語に、ピリオドが打たれます。
話全体を通して非常に素敵なのですが、やっぱりこの小説で一番素敵なのはネイトとクルーエルの関係なのだなと実感。医療では原因すら掴めない病に倒れたクルーエルに対して、自分は何ができるのかと思い悩むネイト。アマリリスとの対話の中で、自分にとって本当に大切なものが何なのかを表そうとするクルーエル。二人が答えを見つけて、二人の心が重なっていく終盤の展開に、二人が詠う讃来歌に、そうしてぐっと縮まった二人の関係に、素敵という言葉以外投げかけるものが思い当たりません。お互いのことを何よりも想い、独りでは決して強い訳ではなくても、相手を想い守ろうとする優しく強い気持ちでお互いを支え合える二人の関係は、すごく良いなと思います。
そして二人の周りのキャラクターたちも、誰かを守るため、あるいは誰かを想う故に行動しているのがこの作品らしいなと。トレミアの生徒たちや教師たち、サリナルヴァやティンカたち〈イ短調〉のメンバー、クルーエルやネイトに一番近い所にいるミオやエイダ。多くの人たちの救いたい、守りたいという重いが連なって、奇跡のようなことを実現させていく辺りは、本当に綺麗。敵役となるミシュダルにしても人を想ったが故のこの行動な訳で、人を信じ、想うということが、この作品の根底には流れているのだなと感じました。
空白名詠というものに関する謎や、世界の成り立ちの謎、シャオやアマリリス、イヴマリーたちのことという物語の核心部分はEpisode.2へ持ち越し。その辺も明かされるのかなと期待していたので少し拍子抜けの感もありましたが、他の部分でも十分に満足。次に出る短編集、そしてEpisode.2となる続編を、期待して待っています。