零と羊飼い / 西川真音

零と羊飼い (一迅社文庫)

零と羊飼い (一迅社文庫)

予想外の展開にびっくり。
地球に迫っているという巨大な隕石。人類を滅亡から救うために集められた3人のレス系と呼ばれる異能者たち。そしてそれぞれと共にいる少女。誰か一人をシャトルに乗せて隕石へと撃ち出すために、閉鎖空間での話し合いが始まります。
お互いを傷つけることができない異能者のため暴力沙汰にはならず、話し合いを主とした関係の中でもたらされる空気が面白かったです。冷たく淡々としてどこか浮世離れした雰囲気の中に、強烈な愛情と憎悪、そして通常の在り方から外れた人たちの狂気が滲んでくる様は、読んでいて不思議な陶酔感がありました。
そんな展開の中の先にあった後半の展開は正直唖然とするものが。突然、作品の構造に自覚的な物語を語る物語と化したことに、身構えていなかった分だけ驚かされました。
ただ、こういう構造をした物語をやりたいならもっとラディカルなことをやって欲しかったなぁという気も。あるいは、やはりこれは小説じゃなくてゲーム向きの題材なのかもしれません。
小説であることの窮屈さは構造的な部分だけじゃなく物語の中にも感じられて、アキラ、アロイス、ウォルシュ、ジーンそれぞれの物語を描くにはちょっと分量が足りないし、話も飛びがちのような印象。
雰囲気もストーリーも、アイデア的にも非常に好みだっただけに、そういうところが惜しいかなと思った作品でした。でも、作者の次回作が出たら読もうと思います。それだけの魅力は持っていると思うのです。