エレGY / 泉和良

エレGY (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

なんて、素敵な。
主人公は泉和良。フリーウェアゲーム作家。HNはジスカルド。サイト名「アンディー・メンテ」。全て実在。
どこまでがノンフィクションかわからない私小説めいた物語は、今の時代を不思議で綺麗な形に切り取った、とても素敵な恋と創作の物語でした。本当に心から素晴らしかったです。
フリーウェアゲーム作家として暮らすも生活は貧窮、彼女とも別れて精神的に追い詰められ、大衆受けを狙ったゲームを作って何とか食いつなごうとする毎日。そんな行き詰った日々の中、ゲーム制作ブログに何かを起こそうと投下した「女の子のパンツ姿の写真募集」というエントリーから走り出す、じすさんとエレGYの不思議な関係。
ジスカルドというネット上で演じるキャラクターと実際の自分のギャップに悩み、アンディー・メンテの大ファンであるというエレGYに近づけず、それでも否応なく惹かれていく様子。登校拒否でリストカッターでストーカーもどきで、明らかに変な子なのに、どこかに居そうでしかも魅力的に映るエレGY。フリーウェアゲームを真ん中に、ネットとメールで繋がって、近所のマックで顔を合せ、自転車に2人乗りする。
そんな2人の様子が、飾り気はなくて読みやすいのに、独特の空気とリズムを持った文章で紡がれていく様子は、なんかもうセンスが良いとしか言えない感じ。ストーリーはフリーウェアゲームを絵画や文章に当てはめて、ネットを文通にでも当てはめればおそらく普遍的なものになるはずで、基本的にはすごくシンプルなはずなのに、どうしてこんなに魅力を感じるのでしょうか。
それはこの人が持っている天性のセンスみたいなものが私にクリティカルで、しかも当たり前にインターネットから人が繋がっていく私たちの時代の空気が、この小説にはぎゅっと詰まっているからなのかもしれません。しかもとびきりにキュートな形で。
もしかしたら伝わる人にしか伝わらないかもしれないけれど、私はこの小説が大好き。そんなことを、胸を張って言える作品でした。もう一度、素敵!