【小説感想】タイタン / 野崎まど

 

タイタン

タイタン

  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 AI「タイタン」により人類が仕事から解放された未来、臨床心理学を趣味としていた女性のもとに、ある仕事の依頼がきます。その仕事は、機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングで……という導入から始まる物語。

超高度AIに設けられた対人コミュニケーション用のインタフェースと人間の対話、しかも不調に陥ったそれをカウンセリングするためのという時点でなかなか飛ばしていますが、そこは野崎まど、それで終わるはずはなく、読み進めるほどに斜め上の展開が待っています。でもこの小説、振り落とされるような斜め上でも、お得意のカタストロフでもなく、次々に予想外の要素を取り込みながら積み上がっていくのです。仕事無き世界で仕事を問う物語、そしてその仕事を引き受けるAIとの対話というテーマは確固としてブレずに、予想を超える展開が滑らかにスピーディーに広がって、様々なモチーフが積み重なり、神話的スケールのエンターテインメントになる。

仕事とは何かを問うみたいに掲げられると小難しさを感じるかもしれませんが、とにかく読んでいるその時が一番面白いエンタメ小説でもあります。野崎まどは読者を手球に取るというか、斜め上のホラ話を自在に展開していくことに長けた作家だと思っているのですが、まさに真っ向勝負でその真骨頂を見せつけるような物語でした。本当に、もの凄く面白かったです。

あとは何を語ってもネタバレというか、これは体験してほしい物語だと思うのですが、一つだけ主張しておきたいこととしては、世界規模のおねショタ小説だったなということ。いや、大変素晴らしい、彼女と彼の物語でした。

 

そして以下はネタバレありで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AIの話だと思って読むと色々「?」なことが多いのですが、これ、AIの話じゃないですよね。タイタンAIって何かというのが最初の種明かしで、それは人間を処理能力を上げるためにサイズと材質から強化したものだと明確に示されている。だから当たり前のように身体があって歩きだして、突然おねショタ世界旅行記になる訳ですが。

いやほんと内匠さんに懐いてるコイオスくんめっちゃ可愛いんですよね……。世界数十億人の命運がかかっている中で一緒に慣れない料理して、相手の作ったものの方が美味しいとか言い合ってるんじゃないよ……いいぞもっとやれ。

それはさておき、人が生み出したのは、人より優れた人で、それに古の巨神の名前が与えられる。そうして人類は神様を生み出して、仕事を委ねて旧人類となった。その巨神がどうして能力を落としているのか、それを巨神に自我を生み出し育てながら、臨床心理学の観点からどうにかしようとした物語でした。ですが、結局巨神たちの問題解決は巨神たちにしかできないからフェーベとの接触が必要だったし、その原因はまさしく働く人類らしいものであっても、旧人類には思いつかないもの。

けれど、内匠さんが自我としてはまだ幼いコイオスと積み重ねていったものは、決して無駄では無かった。コミュニケーションにより2人の間には特別な関係が築かれて、お互いが影響し合ったからこそ、この物語の結末はある。そして、そうして影響を与え、その影響を確かめることを、この物語は「仕事」であると定義します。

果たして、旧人類は神々の仕事のおこぼれを預かって安穏と暮らす存在になったのかもしれません。それでも、神との対話は、その仕事はしっかりと歴史に刻まれた。近未来を起点に仕事とは何かを問い続けた物語は、最終的にこの世界の神話を描く。そういう一冊だったと思います。