【映画感想】すずめの戸締り

新海誠の集大成にして最高傑作と大見得が切られていますが、その宣伝文句通りの映画でした。傑作と思います。

「君の名は」「天気の子」でも描かれていた災害というテーマを今回は3.11を直接大向こうに回して描きながら、家出娘と動く椅子のロードムービーで、人知れず異界からの災いを封じる伝奇もので、親代わりの叔母と姪の関係を描いたもので、突然の出会いから始まるガールミーツボーイでもある作品。それだけのものが詰め込まれながら一切淀みなく流れていくストーリーに、新海作品らしい美しい風景描写、適度にジブリ風味を加えてくるあざとさまで完璧にコントロールされていて、完成度の高い映画になっています。それでいて、全2作を踏まえないとこれは作れなかっただろうと感じさせるので、ああいうキャッチコピーを掲げたくもなるだろうと。

新海作品ってどうしてもこういうものを描きたかったみたいな癖と業を感じるところがあって、個人的には「天気の子」がそこがピンポイントに刺さって大好きなのですが、今回はそういったものが綺麗に昇華されて一つの映画になっているので、もっと間口が広く受け入れられそうに思います。「天気の子」が興収100億と言われるとどうした? って思いますが、「すずめの戸締り」はそのくらい行くよねと思える出来なので、震災がテーマということで難しいという人以外は見て欲しいなと感じる映画でした。

 

 

 

あとはネタバレありで。

 

 

パンフレットや配布冊子を読んでなるほどと思ったのが、ポストアポカリスものとして作りたいという言葉。「君の名は」は起きてしまった災害を無かったことにする話で、「天気の子」は災害を前に大切な人とどちらを選ぶのかという話。でも「すずめの戸締り」は決定的なこと(=3.11)は既に起きてしまっているという話です。すずめの母親に象徴される喪ってしまったもの、直接的な震災の爪痕を描いたシーン以外でも、ミミズがかつて人の集まった廃墟から溢れ出してくることもあり、滅びゆく世界の中で生きていく物語という印象は強く残ります。

「天気の子」での選択の後、世界なんて最初から狂っていたというセリフが好きなのですが、まさしく「すずめの戸締り」は狂った世界に生きる私たちの物語なのだと思います。過去に決定的な喪失を抱えて、これからも少しずつ失いながら、それでも続いていくこの先の時をどう生きるのか。主役二人の見出す答えは、夢や希望や関係性ですらなくて、ひと時だけでも長く生きたいという想いと、あなたはちゃんと大きくなるという未来の自分からの言葉。ただそれだけのものでも、常世で幼いすずめが出会ったあのシーンの回答として、失くしてしまった母親ではなくすずめ自身の言葉が彼女を生かしたということが、凄く良かったと思います。特別でも何でもないその小さな肯定をよすがにして生きていくことが、今の時代の私たちの作品であろうと、そんな風に思うのです。

ちなみに、「天気の子」はゼロ年代が急に蘇ってきたみたいな衝撃があって、「すずめの戸締り」はそこまで直接的なことは感じなかったのですが、改めて振り返ってみると、壊れた世界の中で自分の手で握れるものだけを握りしめて今を生きていく感じ、私が当時感じていたゼロ年代と呼ばれるものそのものな気もします。だからこれは時代が追い付いたというべきか、ここまで後退してしまったというべきか、そんなようなもののように感じられたりもしました。

 

キャラクター的には椅子になった草太の面白さとか、ダイジンの可愛いけどそれだけじゃないところとか、すずめが序盤の道すがらであっていく人たちの暮らしを感じさせる描写も大変良かったですが、何より芹澤朋也が凄かった。草太の大学の友人で、見た目はホストで丸眼鏡で口は悪く無神経だが実は友達想いで教師を目指していて中古おんぼろのアルファロメオのオープンカー(足立ナンバー)で懐メロかけながら面倒な叔母姪にも付き合って東北目指してくれる面倒見の良さもあるC.V.神木隆之介ですよ。いや盛り過ぎにもほどがあるし、こんなの好きにならざるを得ないでしょ。かといって浮きまくってる訳でもなく、映画後半のアクセントとしてちゃんと馴染んでいるのも凄い。割とこう監督の癖は昇華されている映画だと思うのですが、キャストは神木くん指名で口説き落としたエピソードも含め、ここだけ原液かというものが出てきて凄かったです。それと椅子になった草太にすずめが腰掛けるシーン。

 

あと、作中で流れた懐メロ、一枚にまとめてCDにしてほしい気持ちが強くあります。サントラもいいけれど、絶対聞きたくなるでしょ!