2019年に触れた10の沼

だんだん新しいものに触れることが少なくなってきて老いを感じますが、水面で遊んでたはずがなんか沈んでるな? って気づくことが増えた昨今ではあります。

 

1.的場梨沙


THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 8周年特別企画 Spin-off!

はるりさ好きなんですよねというテンションから、一推しははるりさですまで突き落とされたU149連載開始から気づけば数年。総選挙でボイスを望みうる位置で惜敗したあれやこれやの前半戦を超えて、ナゴドでspin-offのPVに泣きましたよね。登場と同時にショットガンぶっ放すとは思わなかったけど、いやむしろそれでこそ的場梨沙か。そしてそこから怒涛の供給がね、スピンオフアニメ、CD(ソロVerあり)、デレラジにデレパ出演、今までに無い量のイラストがTwitterに溢れて、はるりさの中の人たちがデートに行き、そして満を持してU149の的場梨沙編が始まりちょっと気持ちが追いつかない。来年はきっとライブにも来るでしょうし、もしかしたらユニット曲だって、ももぺあべりーでもビートシューターでも、できればビートシューターがいいけど、欲を言えばどっちも欲しいし何ならニューイヤースタイルも2人声つけてほしいくらいだけど、とにかく楽しみだし、死が約束されているなと思います。

ところで私のシンデレラガールズの推しカプはビートシューター(結城晴&的場梨沙)とソルカマル(ナターリア&ライラ)とミスフォーチュン(鷹富士茄子&白菊ほたる)なんですが、この一年で声付きが2/6から5/6になったんですよね。幕張のかこほた最高だったし、ナゴドでナタも見れたし、もうね、確変にもほどがあったんじゃないか2019年。しれっとライラさんも喋らないか2020年。

 

2.RAISE A SUILEN


【公式】RAISE A SUILEN「EXPOSE ‘Burn out!!!’」ライブFull映像【Poppin'Party×SILENT SIREN 「NO GIRL NO CRY」DAY2】

RASとしての初ライブだった去年の両国でこれは楽しいぞと思ってから一年。予感は確信に変わり最高が生まれた、みたいな今年のRASの活動でした。バンドリは相変わらずポピパもロゼも追いかけてるけど、ライブならRASが群を抜いて好き。

とにかくテンション上げることしか考えていないようなデジタルロックに乱れ飛ぶレーザー光線、暴れまくるギターとキーボードとDJがいて、それを支えるドラムと真ん中でどっしりと構えるベースボーカルにはプロミュージシャンを配するというバランスは偶然の産物だろうけど神がかっているなと。キャラクターというか、RASというものをどう表現するかを意識したライブパフォーマンスや、Raychellの落ち着きのあるカッコいい歌声と紡木吏佐のアニメ的にキュートで挑発的なラップの絡みが、バンドリというコンテンツ発だからこその個性になっていて最高に好きです。

あとはもうとにかくライブ見に来てください。楽しいよ!

 

3.プリンセスコネクト!Re:Dive


『プリンセスコネクト!Re:Dive Lost Princess ~ようこそ美食殿へ!~』ダイジェスト試聴

気がついたら1年毎日続いているし、思ってたよりずっと好きだなプリコネ。相変わらずUIは優秀で、ストレスは少なく(当社比)、適度なゲーム性もあるとっつきやすさと、適度に雑で適度に狂っていて適度に趣味の悪いシナリオが非常に性に合います。全てが適度。相変わらず走り続けることを強いられているけど。あと今年は何故か出演したアニサマも最高でしたね。

そしてまあ何よりペコキャルですよ。メインストーリー読みました? ペコキャル最後まで公式じゃないですか。しかもめっちゃ推されてる。ヤバいですね。太陽と月のカップリング最高じゃないですか……。

ストーリーは蒼井翔太討伐レイドイベントを経て第一部完しましたが、真ボスがあの人ならまだ色々ありそうで楽しみにしています。世界改変のかけ方が日日日っぽくていいよいいよってなる。

 

4.ストレイライト


【試聴動画】THE IDOLM@STER SHINY COLORS FR@GMENT WING 06

シャニマスとは距離をおいて生きていたい、そう思っていた時期もありました。

いやー、ストレイライトがね、ストレイライトが登場とともに明らかに好みで。というかあさふゆのカップリングが完全な好きな天才と秀才の組み合わせでこれは危険だと思いながら耐えていたのですが、曲がね、Wondering Dream Chaserが優勝してしまいもうだめでした。

シャニマスってプロデュースするゲームで、私はPになりたい訳じゃなく推していたいだけなんだよなというのがシャニマスとの距離感でもあったのですが、なんと! ストレイライトはステージ上との二面性のアイドルなので、Pにならないと美味しいところが楽しめないんですね!! 巧妙な罠!!!

ということでストレイライトだけはプロデュースも頑張っています。Trueがなかなか見れない。ファン感謝祭ストーリーと冬優子SSRのTrue End、望まれていたものがそのままお出しされた感じで最高でしたね……。

 

5.私に天使が舞い降りた!

年に1作くらい毎週何度も繰り返し見てしまうアニメがあったりなかったりするのですが、今年のそれがわたてんでした。

全面にベッタベタに砂糖をまぶしたような甘く優しい世界に、耳に残る長江里加の「みゃー姉!」のキャッチーさもありつつ、なんかこれちょっとやばいんじゃないみたいなものが見え隠れするのが大変好み。主にみゃー姉絡みとか百合的な関係性とか。かのこよ共依存もなかなかですが、特にひなノアがですね、これもまた太陽と月のカップリングで最高でしたね……。みゃー姉なりきりセットの時のノアのヤバさからの、ひなノアデート回の破壊力。ひなた本当にそういうところだぞ! っていうね。ひなノア本当にね、このまま高校生くらいになって、ひなたがノアから向けられている感情に気づいた時のひなノアが読みたいって言ったら、自分で書けって言われました。ぐぬぬ

 

6.天気の子


映画『天気の子』スペシャル予報

令和元年にお届けされたゼロ年代からのアンサー。

最高の映像&音楽のクオリティで、あの頃の少年と少女の物語が、細部までのエクスキューズをつけながら描かれて、ラストで明確に「間違った」選択をし、その上で作品としてはそれを肯定するってパーフェクトじゃないですかこんな。映画館で上映後しばらくうずくまってたわ……。

何となくうやむやな感じで収束したあの頃の空気を、実はあれはメジャーなものだったんじゃないかと言いながらこの完成度で現在に提示して、興行収入140億の国民的大ヒットにされちゃったらもう新海誠もの凄い以外に何も言えることはないです。凄い。

 

7.少女☆歌劇 レヴュースタァライト


「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」レヴューアルバム「ラ・レヴュー・エターナル」収録曲「追って追われてシリウス」試聴Ver.

スタリラのゲーム自体はあまり触らなくなってしまったのですが、その新しい学校も含めてのレヴューアルバムとなった「ラ・レヴュー・エターナル」と、それを引っさげての3rdライブが大変良かったスタァライト。物語性の強い楽曲をCDでリリースして、ライブで実演するという形式めっちゃ好きなんです。九九組の曲もそうなんですが、演劇要素強く入ってくるライブパフォーマンスがとてもツボで。曲も予想外の方面に攻めたものになっているのも面白いですし、ライブだとなるほどこういうことになるのかという答え合わせができて楽しい。

あと3rdライブ、三森すずこが九九組のライブに出れなかったことによって、愛上華恋と露崎まひるがほとんどの曲でペアを組む、まひるの夢の世界線が現出していて凄かった。そしてそこから満を持してのひかりの登場にこれが運命の2人……となるところまで含めて、偶発的なものでしょうが「削劇 神楽ひかり」が完璧に成立していて、ステージは生物っていう、作品のコンセプトが浮かび上がるのとても良かったです。

 

 

8.HiGH&LOW THE WORST


映画『HiGH&LOW THE WORST』Special Trailer【鳳仙学園】

ハイローのスピンオフ、鬼邪高メインだとそこまで好みではないかなと思っていたのですが、蓋を開けたらハイロー史上一番ちゃんとした脚本(その分ハイローらしいぶっ飛びは控えめ)で魅力的なキャラクターたちが縦横無尽に躍動する映画になっていて面白かったです。

もう映画の冒頭でスキンヘッド軍団がTop Downに合わせて電車を降りてくるシーンでテンション爆上げな訳で。それぞれのキャラクター、それぞれの勢力にテーマソングにのせての見せ場があって、やっぱ最高だなって。村山のEND OF SKYとしても完璧だったし、他のキャラたちもちゃんと全員主人公してたし、あとさっちーめっちゃ顔が良いですよね……鳳仙良かった……。

 

9.梶浦由記

Dream Field

Dream Field

  • アーティスト:See-Saw
  • 出版社/メーカー: flying DOG
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: CD
 

 Kalafina含め事務所関連のゴタゴタから早1年。まあ色々あり、ファンとしても思うところもあったのですが、フリーになった梶浦さんが、本当にやりたいことを自由にやっているように見えて、その結果としてこういうものが見られるなら良かったんじゃないかなと、そう思うようになりました。

See-Sawね、ライブで見られるだなんて、去年の今頃はこれっぽちも思ってなかったから。本当に。

あとYK Liveは更に活発になり、Aimerが来て「I beg you」が聞けたし、Keikoが歌姫sに復帰したし、来年はゲストにHikaruが来てKalafinaのカバーをしますって。ああこれからも進み続けていくんだなと、大好きな梶浦由記の音楽をこれからも追いかけていく事ができるんだなと、噛みしめるような一年でした。

 

10.大橋彩香


大橋彩香 9th single「ダイスキ。」Music Video (full ver.)

最後はやっぱりへご。

ポピパではドラムを叩きロックフェスにも出て、他コンテンツでも歌にダンスに演技にと八面六臂の活躍。個人としてのライブは年1回でしたが、それも素晴らしい出来だった去年のパシフィコを上回る最高更新ライブで追いかけててよかったなと思わせてくれるうちの推し。

推しが見る度に凄くなっていくの、本当に幸せなことだなと思います。

【小説感想】吸血鬼に天国はない 2 / 周藤蓮

 

吸血鬼に天国はない(2) (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない(2) (電撃文庫)

  • 作者:周藤 蓮
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 文庫
 

 ドラマチックでロマンチックな話は前の巻で終わっているのだから、自分に課したルールと諦念の中で生きていた男と人間の理の外にいた吸血鬼の女は、じゃあ実際この先どうするのよと、そういう話になる訳で。ならば、前シリーズで物語に対してああいう真摯さ、ある意味での潔癖さを見せた作者が、人を喰らう吸血鬼と人間の2人に仮初の安寧を許すわけがないよなあと。

運び屋としての己の定義を捨てたシーモアと元より定義の外にあったルーミーが、人の社会の中に生身で放り出され、それでも生きていくならどうなるのか。物語の大枠は「賭博師は祈らない」によく似ていて、けれど曲りなりにもヒーローとヒロインだったラザルスとリーラに比べこの2人はずっと難しくて、その2人が悩んだり追い詰められたりするのが話の中心なのだから、これがなかなか難儀です。賭博勝負のようにわかりやすい見せ場が用意されるわけでもないですし。

ただ、そういう分かりやすさを投げ捨てて、綺麗にまとめるではなく、粗くても踏み込んだ感じが私は好きです。分かりあえなさと閉塞感と消えない暴力の気配の中で、触れたところだけが温度を持っているような2人のあり方も、関係も、本当にどうしようもなくて、そのくせに潔癖で、青くて暗い中に鮮やかさがある感じがとても好み。

今回の話は世界唯一の吸血鬼が前巻の出会いを通じて人間というものに何を見たのか、そして彼女自身どうありたいと思ったのかを描くものだと思います。彼女が恋して憧れた人の純粋性と、人を糧にしないと生きられない吸血鬼であるということの矛盾。それは、ルーミーが人とどう対するかだけの問題であって、転がり込んできたバーズアイ姉妹も、幻想に全てを費やしてきた吸血鬼狩りも、死神と呼ばれた殺人者さえも、言ってしまえばシーモアだって人間のうちの一人でしか無い。

ルーミーを生かすために彼女の罪を許して縛ったと考えていたシーモアとはそこがずっと噛み合わず、けれど一緒にいることでお互いに影響は与えてはいる。そんな不安定な状態の果てに、彼女には飢えという限界が来ます。そんな望み、最初から成り立つわけがなかったとばかりに。

生まれて間もない吸血鬼が「人間の純粋性」なんて概念に恋をして、概念でしかない吸血鬼を追い続けたある意味純粋な一族の末裔と対峙する。運命を分けたのはそこに殉じて死ねるのか、それでも生きたかったのか。シーモアがルーミーに行った提案は、純粋に生きられない人間が、それでも生きていくためのちょっとした魔法で、2人の関係に持ち込まれた少しのズルみたいなものかなと思います。ひたすら真面目に考え抜いた末に、普通の恋物語にこんな捻れたところから着地するのが、この作品らしくてとても良いなと思いました。

とはいえ、それはあくまで抜け道であって、それを幼さからの脱却だと肯定できるかというと、この作品はそれをきっと許してはくれないのだろうなとも思います。考えるほど吸血鬼と人間は一緒に生きてはいけないとしか思えない中で、2人の物語にいったいどういう折り合いがつけられるものなのか。不安もありますが、楽しみに待っていたいと思いました。

【小説感想】ゲームの王国 上・下 / 小川哲

 

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

 
ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

 

 読み終わって正直どう解釈すればいいのか分からないところはたくさんあるのですが、いやしかしこれはなんだ凄い小説だったなと。圧倒されるような熱量と密度。様々な要素が溶け合った混沌から生まれた奥行きというか濃度というか、なんだか凄いものを読んだという感触の残る物語でした。

舞台はカンボジア。まずカンボジアという国のこともポル・ポトの時代も不勉強にも知らなかったのですが、上巻で描かれる革命前夜の空気感漂う秘密警察の時代から、クメール・ルージュによる革命、そして原始共産主義という理想のみで突き進んだそれが導いた崩壊まで、帯コメントにもある通り見てきたかのように描かれていて凄いです。

革命の起きる都市部、呪術的な暮らしの中にある農村、様々な登場人物たち、暴力、虐殺、どこまでも降りかかる不条理の嵐。その時代の中にあった人々の記憶を饒舌に滑らかに語っていくので、まさに自分がその体験をしてきたかのような気持ちにさせられます(カンボジアのことなんて何も知らなかったのに)。勢い余って、古来から歴史を語り継いできた人々っていうのはこういうふうに話をしてきたんだなと思ったりするのですが、でもこれフィクションで言ってみれば法螺話のありもしない歴史な訳で、それをこんなふうに語ってしまうのが小説家なのだなと。

下巻に入るとうって変わって近未来。荒れ狂う時代を生き抜いた、一度だけゲームをした記憶で繋がれたソリヤとムイタックの2人。ソリヤはこの国というゲームはルール自体が誤っていると考え政治家を目指すも、正しいことをするために積み重なる正しくないことに直面し、ムイタックはその道は間違いだとしてソリヤを止めんと脳波を用いたゲームの開発に没頭します。

世代は変わり、様々な人たちが関わりあい、時代はうねって、2人は駆け抜けた。そのゲームになんの意味があったのか、この物語は何を伝えたいものなのか、私には分からないことも多かったのですが、あっけない幕切れは、人生は往々にしてそういうものであるのかなとも。何かを語るために物語があるというよりも、そういう時代があり、そういう場所があり、そこに生きた人たちがいて、その記憶が積み上がって今ここに物語があるのだと、そんなふうに感じた一冊でした。

【ライブ感想】See-Saw LIVE ~Dream Field 2019~ 12/15 @ 東京国際フォーラム ホールA

 

Dream Field

Dream Field

  • アーティスト:See-Saw
  • 出版社/メーカー: flying DOG
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: CD
 

 何年か前にKaji Fesをやった時に、それでもSee-Sawは無かったことで、ああ見ることはできないんだなと思っていたものを今年犬フェスで見ることができて、そして17年ぶりに、アルバム発売から16年越しにそのタイトルを冠した単独ライブが開催されるって、そんなのもうね、生きてさえいれば何でもあるんだなって思いますよね。

Yuki Kajiura Liveとバンドメンバーはこれだけ被っていても確かに違う空気があって、ステージの上に梶浦由記石川智晶の関係性があって、See-Sawの音楽があった、そんなライブでした。正直ライブ中はずっと実感が無くて、See-Sawの曲が生で聞けているなあ良いなあと思うばかりで、終わってもなんの言葉も出てこなくて、今振り返ってじわじわと感慨があるみたいな、そういう感じ。そうだよな、好きだったもんなって。

またパンフレットのインタビューがかなり踏み込んだ話をしていて、本当にこの16年触れられなかったものの輪郭が感じられるのがなんというか。石川さんと梶浦さんと森さんがいて、今でもそれぞれの音楽をやっていて、交わる場所が、本当に一夜限りであった、贅沢なライブだったなと思います。だからこそ大人の遊びですという言葉に繋がるのだろうなと。

どれもこれも聞きたかった曲だし、本当に聞けて良かったし、この曲にこの歌声がSee-Sawだよなって思ったのですが。初期曲である「Swimmer」の今では無い綺羅びやかで向こう見ずな明るさも良かったし、「千夜一夜」の圧倒的な世界観は素晴らしかったし、「記憶」「Obsession」「edge」「君がいた物語」の流れの格好良さも最高でした。繰り返しになりますが、贅沢で、幸せなライブでした。

【小説感想】6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 / 大澤めぐみ

 

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)
 

 地方都市の高校生の3年間を、4人の視点から、作者らしい饒舌な一人称で駆け抜ける物語。その語りと群像劇の構成が、高校時代を描くのにぴったりで、良き青春小説でした。

高校デビューした地味な優等生の少女に、流されるままにスター選手となったサッカー少年、家庭に問題を抱え夜の街で過ごす不良少年、華やかな笑顔と明るい性格で逆に回りをシャットアウトする少女。そんな4人はそれぞれの物語を持っていて、彼ら彼女らがお互いに見る姿と、自分自身の抱えているものが一致するとは限らなくて、それでも関係は生まれて、そして変わっていく。分かりあえないこともあるし、ふとしたことで距離が縮まることもあるし、悪いこともたくさんあれば、捨てたもんじゃないことだってある。びっくりするような大事件が起こるではなく、恋愛だとか、遊びだとか、部活だとか、受験勉強だとか、上京だとか、そんなありふれたイベントと共に連ねられるのは内省的な語り。それでも3年という時の中で、彼らの関係も、彼ら自身だってちょっとずつ変わっていく。入学時の彼ら彼女らの先に、まったく違う形で現在がある。その先にはもちろん、未来がある。

そういう、なんとも言えない微妙な青春時代のニュアンスを描くのがとても上手いなあと思ったし、そういうものを表現するのに、この勢いで押し流していくような文体はとてもハマるのだなと思いました。

個人的には、4人の中ではちょっと普通から外れているセリカの話が好きです。彼女の章を読み始めてすぐには性格悪いなと思った外面と内面のギャップ。でも、自分自身すら押し殺して、思い込もうとしていたものと、そうならざるを得なかった理由を知れば、そんな簡単なものでは無いことも分かって。他人に踏み込ませないことで自分を守っていた彼女が、踏み外せば沈んでいくギリギリで救われたのは、ルールを破って踏み込んできた香衣の存在と、望まぬままに育ての親となった正弥の意地によるものだったのが、すごく良いなと思います。何をもってちゃんとしているかは分かりませんが、セリカにはちゃんとした大人になって、報われてほしいなと思いました。

【マンガ感想】やがて君になる 8 / 仲谷鳰

 

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

  • 作者:仲谷 鳰
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: コミック
 

 最終巻。これ以上の無い大団円。

この巻に収録される最初の話である第40話で「やがて君になる」という2人の関係を描いた物語としては、タイトルの示した意味も含め完成していて、そこからの話はグランドエピローグというか、ボーナスステージという感じ。そしてもうこれが、これ以上なく純度を高めた、2人の、これまでがあったからこその時間を、その更に未来に向かって描いていて、良かったねえ、本当にねえと思うものになっています。ダダ甘とか色ボケとかバカップルとか何とでも言い様はあるのだけど、この上なく幸せで美しいものとして描かれているので、キラキラした工芸品を見ているような気分になる……。

そしてまあ最終話ね、2人が大学生になった後の話ですが、指輪ですよね。最初隠されていたものが、ごく自然にあるものとして描かれて、そしてこのラストシーンでフォーカスされるのはあまりにも美しかったです。あと呼び方もですね。全くもうね。

それから佐伯沙弥香さん、ちゃんと吹っ切って、次の自分の恋を生きていて、幸せそうで本当に良かったなって思いました。ていうか誰だ陽ちゃんって思ったけどそのための「佐伯沙弥香について」3巻か……!

【ライブ感想】H-el-ical// LIVE 2019「紡 -TSUMUGU-」12/1 @ 神奈川県民ホール 大ホール

h-el-ical.com

 

Kalafinaの解散って私の中で未だになかなか受け止めきれてない事象なのですが、それはともかくメンバーはそれぞれの道を歩みだしていて、その中でもしんがりとなったHikaruのソロプロジェクトH-el-ical//としての初ライブ。

Kalafina時代から、ハーモニーが特徴のユニットらしからぬエモーショナルで癖強めなHikaruの歌い方はソロでも聞いてみたいなあ、できればロックな曲でと思っていたのですが、やっぱりソロ、とても良かったです。ライブが始まるまでに感じていた不安も吹き飛ばして、歌い出した瞬間にやっぱこの人の歌好きだって思えたというか。ああ私はこの歌声が聞きたかったんだと思った、というか。

H-el-ical//としての新曲たちは、Hikaru本人が作詞をして、作曲も新しい人が入っていて、ジャンルレスでどこか無機質な感じ。聞きたかったロックなHikaruが聞けた「Existence」がとても良かったです。Kalafinaの最後の方はとにかく完成度の高いライブをしていた印象が強いのですが、今回のライブは全体的に若く、青く、等身大で、そしてこれからだという空気に満ちていたのがすごく新鮮でした。

それからやっぱりKalafinaの曲を、キーボードの櫻田さんとアコースティックバージョンでやったというのが、特別だったなと思います。「ARIA」「blaze」「sprinter」と歌い上げた3曲。シンプルな伴奏と、自分のパートだけを歌うHikaruに、逆に不在が際立ってくるような、ようやくもう聞けないってことが身にしみたような、そういうパフォーマンスでした。

あとは相変わらずだったMCの様子とかグッズ紹介コーナーとか、アニメ好きなんですよと言いながらアニソンカバーコーナーでYOI、喰霊零、BLOOD+を歌って趣味ダダ漏れやなと思ったりだとか。

ずっとこのライブにどういう気持ちを持っていけばいいのかわからずにいたのですが、本当に行って良かったし、来年のメジャーデビューも決まって、ここから新しく進んでいけるなと思えたライブでした。とても良かったなと思います。