火目の巫女 / 杉井光

火目の巫女 (電撃文庫)

火目の巫女 (電撃文庫)

悲壮にして痛切。こういうのは大好き。
橋本紡が帯に電撃らしくない小説と書いていてたので、少なくとも巫女萌えな小説じゃないんだろうなぁとは思ってたのですが、まさしくその通りで私の持ってる電撃のイメージの小説じゃなったです。なんというか、ちょっと空気が違う感じ。一般小説的……なわけでも無いか。
化生という化け物が暴れる日本の奈良〜平安時代を思わせる世界で、その化生を倒せる唯一の力を持った火目と呼ばれる巫女を目指す、三人の少女の物語なのですが、少女の成長と友情を描いて火目になってハッピーエンドみたいなことは全然ないです。
主人公の伊月は化生に親を喰われ、そこを拾われて生き延び、火目になって化生を焼き尽くすことだけを目指しているのですが、この火目を目指す心理が既に追い詰められていて、序盤から痛々しいです。同じ火目候補の常和や佳乃との弓の力量の差に焦ってイライラして空回る様とかもう。
そんな序盤から少しづつそういう感じがなくなってくると同時に浮き上がるのは、火目という存在や、化生という存在などにまつわる疑惑。様々な疑惑が渦巻いて、ラストへ向かって全てが明らかになれば、そこはもう救いのない世界。誰も悪いことはしていないのに、構造上どうしても生まれる歪みとそれが強いる犠牲。自分の信じていた価値観が全て壊されて、それでも抗おうとする伊月の様があまりに悲壮。それぞれの選択やそれでも変えられないものが痛く切ないです。
決して後味もよくないし、救われない小説ですが、この悲壮感がすごくツボで、最後のほうは一気に読まされました。
文章は静かで透明感のある感じで、世界観には合ってると思います。ただ、序盤で弓の描写にページを割きすぎてるかなぁとは思いました。もう少し三人の関係を丁寧に描いてれば、ラストの痛切さがもっときついものになったかなと思いました。あと気になったのは、ちょっとあざといかなぁと思われる部分が多かったくらい。萌えという感じのあざとさじゃなくて、普通にあざといような。
あとがきは……ちょっとネタ仕込むのはどうかと。
あと、映像化したらすごく良い感じになりそうなので、この作品はいつかアニメで見て見たいです。アニメじゃなくとも、これなら実写でもいけるかも。
とにかく個人的には好みなので続編が出るなら期待大です。
満足度:A