流れ星が消えないうちに / 橋本紡

流れ星が消えないうちに

流れ星が消えないうちに

思い出はいつだって綺麗だから、今が大切に思えなくなってしまう。
橋本紡初の一般小説は、死んでしまった一人の人を巡る二人の人間の物語。事故で死んでしまった加地君と残された恋人のわたしと、親友の僕の視点を交互が入れ替わりながら話は進みます。とはいっても何が起こるわけでもなく、続いていくのはただただ当たり前な日常。お父さんが家出してきたりで、家族の話にもなってはいますが、メインはいなくなってしまった大切な人とどう向き合うかというもの。
感傷的な回想シーンで語られる二人にとっての加地君はどこまでも神聖化されていて、絶対に揺らがない死んでしまった人間なので、それに縛られて前に進めなくなってしまっている二人の姿を見ているのはなんとも辛いものがあります。それでも、変わらず流れる時間と少しづつ変化する日常の中で、今を受け入れてしっかりと前を見て行こうとするのが素敵。酷いことも辛いこともあるけど、うれしいことも楽しいこともある当たり前な日常を生きていくことの素晴らしさを真っ直ぐに称えているような感じです。最後のほうはちょっと泣かされて、自分の涙腺はどこまで緩いんだろうと呆れたりも。とても地味で淡々とした静かな小説ですが、読み終わって素直に良かったなといえる小説だと思います。
しっとりとした文章は一般向けでも全く違和感なし。ただ、テーマがありふれたものだけに、それが逆にこの本を目立たなくしてしまうような気も。どこへ行ってもなかなか見かけないほどに配本数も少ないので、この先新潮社で本が出せるのかなぁと少し心配になったりもします。
あと、半分の月がのぼる空をあらかじめ読んでいたほうが多分グッと来るものがあるのだろうなと思いました。直接の関係はありませんが、テーマとしてはやっぱり繋がってると思うので。
満足度:A-