さよなら妖精 / 米澤穂信

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

ユーゴスラヴィアからの訪問者。時代設定は1991年。目次に「第2章 キメラの死」。
これだけの材料があれば、これからどんなことが起こるのかなんて想像がついちゃうじゃないですか。ユーゴから来たマーヤが7番目の文化を創ると言い、政治家になると言い、最悪のパターンだって考えながらユーゴの未来を信じて日本の文化を貪欲に学ぶ様子が、読んでる途中からやるせなくてしょうがなかったです。それでも、マーヤの芯の強さは印象的。だからこそあの結末の鮮烈さがあるのですが。
マーヤを受け入れた側の高校生達の青春話としても面白いです。4人の微妙な関係もいいし、主人公の遠い世界を望む心も青春。日本文化の日常的な謎をマーヤが「哲学的な意味がありますか?」と言い、主人公達が解く幸せそうな日常の裏にあったことが明かされて、なんともやるせさを残すラストがなんとも。マーヤと主人公の二人の文化は、一緒に過ごした日々の中でものすごく近くにあるようでいて、決して交わることはなかったということ。子供の手は、ユーゴという国の大きな流れの中では無力だったということ。苦いです。
ラストに明かされるミステリ的な仕掛けは面白かったです。だけどもう少し、報われて欲しかったなぁ……。そんなイマイチ言葉にならないもどかしさも残った小説でした。でもこれは確かに祈りの物語です。
満足度:A-