あまがみエメンタール / 瑞智士記

あまがみエメンタール (一迅社文庫 み 3-1)

あまがみエメンタール (一迅社文庫 み 3-1)

綺麗で汚い、百合色の世界。
外界から完全に閉ざされた全寮制の女子高の中で続いていく、莉子と心音の美しく歪な関係を描いた連作短編集。
いつまでたっても小学生のころのままの姿で、ちょっとしたことで爆発して、ママが大好きで、甘ロリ服に身を包むお姫様の莉子。衝撃の出会いから彼女の面倒を見る役になり、そのまま莉子だけが全ての世界へなだれ込んでいく心音。2人の関係は不健康そのもので、歪んでいて、でも2人だけの世界に閉じようとする共依存の関係には、抗いがたい美しさがあって。
そしてその2人の関係の象徴となる行為が、莉子が心音を「食べちゃう」行為。不安定になると心音を求める莉子、痛みを感じながらも噛み痕を写真に撮ってアルバムにする心音。いわゆる「吸血」に近い雰囲気の行為なのですが、非日常の介在する余地がないから、その分だけさらに純粋で歪な行いに見えます。そしてこのあまがみのシーンはドキッとするくらいにえろい。
物語的にはそんな2人の関係を軸に彼女らに関わってくる人や、莉子の母親との関係、莉子と心音の関係の変化などを描いていく感じ。こういう百合ものは、雰囲気こそ一番重要だと思うのですが、この作品の雰囲気は非常に良いです。特に、序盤の社会に背を向けたような澄んでいて病んでいる感覚は本当に素敵。ただ、中盤から後半になってくるとちょっと崩れるところもあったかなという気も。
あと、物語の落とし所は温いとも言えるけど、ちょうど良いところなのかなという感じなのですが、そこに至る終盤の展開がちょっと駆け足だったかなと思ったり。ロリータのドレスは戦闘服。それを纏って学園を飛び出すシーンなんかは凄く好きなのですけど。
凄く作者の人の趣味色が強くて、「こういうのが好き」という色が出ている作品なので、合う合わないははっきりしそうな気がしますが、私はこういう作品が大好きです。作者の「幽霊列車とこんぺい糖」も好きな作品ですし、これからもこういうお話を書いて欲しいなと思いました。