ひかりをすくう / 橋本紡

ひかりをすくう (光文社文庫)

ひかりをすくう (光文社文庫)

肩の力を抜いて過ごせる、何でもない日常の有難さを感じられるような作品でした。
パニック障害の治療のためにデザイン事務所の仕事を辞め、一緒に暮らす哲ちゃんと田舎町へ引っ越して暮らし始めた智子の日常。近所の不登校の子に家庭教師をしたり、哲ちゃんの元奥さんとバトルしたり、田舎の姉が突然やってきたり、そんな感じで過ぎていく毎日が描かれます。
プライドに押しつぶされ不安に駆られて、自分自身を追い詰めていく智子の性格にやたらとシンパシーを感じて、何だか人ごと感覚で読めない小説でした。ちょっとしたことにこだわって理窟っぽくなってみたり、変なところでむきになったり、力の抜き方が下手で変に真面目な智子の行動や言動は、何だかもう分かる分かるとしか言いようがない感じ。
だからこそ、何かに追われるように仕事をする中で、自分でも分からないまま追い詰められて、ある日突然堰を切ったように破綻するまでの、パニック障害の描写のリアルさに胸が苦しくなりました。似たような経験があるだけになんかもう、うわぁという……。
そんな彼女のそばにいる主夫の哲ちゃんは、料理上手でおおらかなでどこか子供っぽい性格。どこか余裕のない智子に対して、こういう性格の哲ちゃんが隣にいたからこそ、こうやって自分のペースで生きられる日々を取り戻せたんだろうなと思います。こんな人が現実にいたらあまりに理想的で都合がよすぎる気もしますけど。
最後まで、特別に何かがあるわけでなく、ゆっくりとした日常が続いていく、本からそっと大丈夫だよと言われているような感覚になる小説でした。ただ、それに対してもやもやが残るというか、そんなに世の中甘くないんじゃないかなと思ってしまう私は、スローライフができない人なのかなと思ったり。まぁ、ただ単純に羨ましかっただけかもしれませんが!