黄昏色の詠使い イヴは夜明けに微笑んで / 細音啓

泣ける物語でした。
名詠という触媒を持ちい、賛美歌を詠うことで呼び出したいものを呼び寄せる名詠式のある世界で、その名詠を学ぶものたちの物語。本来赤・青・黄・緑・白の五色しかないはずの名詠式には存在しない、夜色名詠を使う少年ネイトが学校に転校してきて、クルーエルとミオという二人の少女に出会うところから話が始まります。真面目で芯が強いネイトと、クルーエルの関係が姉と弟のようで微笑ましいです。
序盤の展開はいまいちかなと思っていたのですが、事件が発生してからは素晴らしかったです。過去に交わされた約束と、現在を生きるものたちの強く生きる心が交差して結実する辺りの展開はゾクッとくるものがありました。過去の約束が果たされると共に、現在を生きるものたちの成長物語にもなっているという、この辺りの過去と現在の絡め方は非常に良かったと思います。
あと、名詠の設定もなかなか。私は詠うことで呼び出すというそれだけでなんというか満足な訳ですが、細かい部分もちゃんと作られていて雰囲気があってよかったのではないかと。名詠という設定と、小説全体を包み込んだ切なくて綺麗な雰囲気と、繊細なイラストが非常に良くマッチしていると思います。
ただ、全体的に書き込みが足りないような所もあって、特に前半は話をこなしている感じが強かった気も。あと、視点変更が頻繁な割に、それぞれの視点に目立った特長がないのでちょっと混乱しました。
ただ、そうした部分は次第に良くなっていくでしょうし、このセンスは大好きなのでしばらくは追いかけてみようと思います。
満足度:A