2017年の7作(小説)

去年比では割と読んでいたような気がする今年。読了本から面白かった小説を7冊。

 

ストライクフォール / 長谷敏司

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

 

 ルール化された戦争としてのストライクフォールを印象付けた2巻と、スポーツとしてのストライクフォールを描ききった3巻。特に3巻の熱さが半端なかったです。この作品以外では全く知らない架空競技で、その競技の歴史が変わる瞬間の目撃者になることにこれほど興奮できるとは。読んでいる間、私は確かにシルバーハンズのファンで、何よりストライクフォールのファンでした。

ストライクフォール 2 / 長谷敏司 - FULL MOON PRAYER

ストライクフォール3 / 長谷敏司 - FULL MOON PRAYER

 

キッズファイヤー・ドットコム / 海猫沢めろん

キッズファイヤー・ドットコム

キッズファイヤー・ドットコム

 

 ホスト+子育て+クラウドファンディング+炎上。高速で繰り出されるホスト文体と飛び道具的な組み合わせの話の先に試されるのは読み手の常識と先入観。時代に投げかけられた、鋭利かつ鮮烈な一冊だと思います。

キッズファイヤー・ドットコム / 海猫沢めろん - FULL MOON PRAYER

 

正解するマド / 乙野四方字

正解するマド (ハヤカワ文庫JA)
 

 ファーストコンタクトSFに見せかけた創造者/被創造者の物語だったアニメ「正解するカド」の、小説という媒体における完璧なる再構築。私小説に見せかけた、過剰なまでにキレッキレのメタフィクション小説。傑作だと思います。

正解するマド / 乙野四方字 - FULL MOON PRAYER

 

じごくゆきっ / 桜庭一樹

じごくゆきっ

じごくゆきっ

 

 読んでいて文章に呑まれそうになるような、桜庭一樹をぎゅっと濃縮したような短編集。どれも桜庭一樹やっぱり凄いと思わさせられるような作品でしたが、「ロボトミー」が本当に凄かった。

じごくゆきっ / 桜庭一樹 - FULL MOON PRAYER

 

86 / 安里アサト

 1巻のラストシーンへの流れがもう反則級に素晴らしかったです。そんなんもう好きやん……ってなる。小説的には相当粗いと思うのですが、それだけに描きたいものとそこにこめた想いが、これでもかというくらいに伝わってくる作品でした。

86 ―エイティシックス― / 安里アサト - FULL MOON PRAYER

86 ―エイティシックス― 3 ラン・スルー・ザ・バトルフロント 下 - FULL MOON PRAYER

 

ここからは、今年発売の本ではないですが良かったものを2冊。

 

隻眼の少女 / 麻耶雄嵩

隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

 

 ほんと麻耶雄嵩マジ麻耶雄嵩と言うと感想が終わるのですが、いやでもうやっぱ麻耶雄嵩でしょこんなのっていう、探偵の在り方にテーマを置いた一冊。隻眼毒舌ツンデレ美少女探偵というお前アニメでも盛り過ぎだぞみたいな子がヒロインなので、みんな軽い気持ちで読むと良いですよ。なお読み終えて壁に投げても責任は取れないのであしからず。

隻眼の少女 / 麻耶雄嵩 - FULL MOON PRAYER

 

ギンカムロ / 美奈川護

ギンカムロ (集英社文庫)

ギンカムロ (集英社文庫)

 

 夜空いっぱいに花開く大輪の花火とそれを見上げる職人の姿が頭の中に映し出されて、思わず花火を見に行きたくなる、本当に素敵な小説でした。美しい花火だった。

ギンカムロ / 美奈川護 - FULL MOON PRAYER

 

12月のライブ/イベント感想

12/3 Kalafina Acoustic Tour 2017 ~"+ONE" with Strings~ 12/3 @ 東京オペラシティコンサートホール

感想は以下のエントリで。

 

12/8 ZAQ LIVE 2017「KURUIZAQ ver.2017」@ 吉祥寺SEATA

BRAVER

BRAVER

 

 ZAQのライブは本当に楽しいな!! っていうライブでした。曲調は色とりどりですがとにかくキャッチーで速い曲を叩き込んでくるセトリが死にそうになるけど楽しいです。バンド含めた安定感と高揚感。やっぱりすごい好きだなと思います。次のライブも行かなくちゃ。

 

12/10 SEASIDE LIVE FES 2017~RAINBOW~ @ 舞浜アンフィシアター

シーサイドのイベントは、別にシーサイド所属というわけではないのに、いつ見ても出演声優陣にも、スタッフや観客まで含めたイベント全体にもファミリー感があって、それが凄く良いなと思います。それがシーサイドのイベントの味なんだなと。

 

12/28 COUNTDOWN JAPAN 1718

ロックフェスのタイムテーブルから好きなバンドを見に行って、前のバンドと入れ替わりの時に雑に前の方まで来れちゃったりする感じとか、あとの時間はベンチでぐったりしていたり、何か食べてたりできる感じとか、あの緩さと会場のお祭り感、すごく好きなんですよね。そしてCDJは屋内フェスなので日差しや暑さ寒さに体力を持っていかれず、ちょいちょいアニソンの人も呼んでくれるので個人的には大変ありがたく毎年足を運んでいます。これに行かないと年が越せない。

amazarashi→KEYTALK→LiSA→さユり→Aimer→WANIMA→ASIAN KUNG-FU GENERATIONの順で見たのですが、KEYTALK楽しかったです。新曲も良かったし、「桜花爛漫」「MONSTER DANCE」は一度聞きたかったので。ただ、メンバーが自分たちが29歳だからと、それより上下のコーレスした時、ほんとにこのバンドのファン若いんだなと……。三十路超えには厳しい世界。

あとAimerが明るい曲をめっちゃステージ上で走ったり客席に手を振ったり跳ねたりしながら歌っていたので、これまで見てきた姿とのギャップにめっちゃ驚きました。ああいう感じのライブもするんだ......良いな......と。あと「花の唄」聞けた。

そしてアジカン。初期の頃が好きでそれ以降はという人だったのですが、あのニュートラルで心地良感じのライブを聞いて、なんかたぶん聞き方が間違っていたんだなと。凄くいいじゃんと思いました。人気曲全部載せみたいなセトリも良かった。

ユートロニカのこちら側 / 小川哲

 

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 自らの情報を全て開示することで、労働から解放され、安全で豊かな生活が保証される実験都市アガスティアリゾート。その理想郷が人々に社会に何をもたらすのかを、その在り方に自分自身を投げ出せなかった人たちの視点から描いた短編集。

ジャンル的には情報管理社会のディストピアものに当たるのだと思って、考えることをやめられなかった人たちが、理想郷として立ち上がる社会の在り方を前に悩み、苦しみ、行動を起こし、あるいは起こせないという姿を描いているのですが、このアガスティアリゾートが果たしてディストピアなのか、読み進めるほどにわからなくなってくる小説でもあります。

常に行われる監視。情報を管理するシステムによる犯罪予測を根拠にした逮捕。情報等級によるランク付け。サーヴァントが推薦する選択肢に従うだけの生活。それが、人類が一体何を機械にアウトソースした結果なのか。情報の処理を外部化して、意思すらも機械に代替させるでより効率的に豊かで安全な生活が得られるならば、それは単純作業をオートメーション化することと何が違うのか。

人が人である所以を自由意思に求めた時、それを外部化した時に残ったものは果たして人なのか、そもそも自由とは一体何なのか。物語として面白いかというと盛り上がりに欠ける感は否めないのですが、今と地続きにあると感じさせる世界に生きる人々の姿に、そんなことを考えさせられる一冊でした。

 

86 ―エイティシックス― 3 ラン・スルー・ザ・バトルフロント 下

 

 「ラン・スルー・ザ・バトルフロント」の上下巻2冊は、レーナの物語だった1巻のその先を、レーナとシンの物語とするために必要な、シンの物語だったんだろうと思います。

死ぬための出撃の果てにギアーデ連邦に救われ、エイティシックスとしての扱いから抜け出せたはずの彼が、それでも軍に属し、最前線への配置を望み、レギオンとの闘いの中に身を置く理由。自由を奪われ、家族を奪われ、ただレギオンとなった兄を討つ目的と、最後まで戦い抜くという誇りだけを持って生きてこられたのは、終わりが決まっていたからだったという皮肉な構造が、はるか未来までを描ける立場に置かれた時に、彼を縛り、苦しめるのは読んでいて辛いものがありました。

それだけしかなかったから、そこに己の全てを置いて、それだけではない世界に来た時に、自分を否定せずに生きる術がない。そんな状況に置かれた彼の姿を、密度の高い文章で何度も何度も繰り返すように描くのは、同じ場所にひたすら黒いペンキを塗り重ねるようで、粗いのだけれど、暗い熱さがあるように感じました。

そしてそんな彼を救ったのが、ギアーデ連邦の対電磁加速砲型レギオン総力戦のスピアヘッドとして突撃した彼らが、戦場で再び巡り合った彼女。お互いの姿が見えない中、かつて彼が彼女に語った言葉が、1巻のまさに裏返しのように彼を救う構造の美しさ。ああ、だからこれはこの先を語るために必要な物語で、彼ら彼女らがこの先を生きていくためには、描かなければいけない話だったのだなと。

シンの物語としてそこまでを描いたからこそ、1巻のラストにあった台詞の、その先に進むことができる。初めての再会を果たした彼らのこの先は未だレギオンによる危機の中で、それでもその未来に希望を持ちたくなるような、改めての感動的なラストシーンでした。

虚構推理 7 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理(7) (月刊少年マガジンコミックス)

虚構推理(7) (月刊少年マガジンコミックス)

 

 続きだ! 虚構推理の続きが読めるぞ!!

という訳で、鋼人七瀬より後のエピソードを収録した短編集。探偵”岩永琴子”の特異性を改めて示し直すような3つの事件でした。

というか、岩永琴子、あくまでも怪異たちの知恵の神であって、真実を解き明かす探偵ではないんですよね。怪異たちに何か頼まれれば相談に乗るし、その過程で人に知りえない情報を手にするから外からはチート探偵に見えるけど、別に本人としてそこにこだわりがあるわけでも何でもない。そして、真実が怪異たちの悩みを解決するなら解き明かすかもしれないけど、そうでないなら全然別の納得いく回答をでっち上げることを是とする。それが怪異たちのためになるから。

それが怪異たちと関係ないところにいる人間から見ると探偵のように見えるから、何だか良くわからない存在として謎解きの中心に存在するというのが面白いなと思います。「よく行く店」はまだしも、高級店で一人うなぎを食べてたらいつの間にか菩薩扱いされて勝手に事件が解決していく「うなぎ屋の幸運日」とか、もはや怪異と関係ない部分で本人何もしないまま事件の中心にいるの、岩永琴子だなあと。そして解決というか、相談への対応というオチの部分もまた。

あと、相変わらず琴子が迫っているだけのような九郎との関係も、なんだかんだ言ってちゃんと付き合ってるんじゃんと思う短編集でもありました。お幸せにという感じでもないですが、お似合いではあるのかなと。

ストライクフォール3 / 長谷敏司

 

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

 

ちょっとこれは凄い。熱い。ヤバい。 

宇宙における技術開発と戦争にあまりにも近すぎるスポーツであるストライクフォールですが、この巻はぐっとそのスポーツとしての側面に寄せてきた感じ。そして慣性制御という全てのセオリーを覆すブレイクスルーの後に来る、新シーズンの開幕戦なんて盛り上がらない訳がなく。

これまであまり省みられなかったチルウエポン耐性と反応速度が重要になり、慣性制御による高速化とリンカーと呼ばれる速度調節テクニックが、従来の宇宙戦を前提に構築されてきたフォーメーション戦術に叩きつけられる。その激動の時代の中でシルバーハンズの一軍キャンプに呼ばれた雄星がぶつかる壁と彼にしか出来ないこと。そして不動のリーダーであったケイトリンに慣性制御への適応という課題が持ち上がり、その牙城を混沌の時代に天才的な攻撃センスでリーダー候補に抜擢された"蛮族"アデーレが打ち崩す。そしてやってくる、前年度優勝チームとの開幕戦。試合の開始から終了まで、カットすること無く一気に描かれるその試合。時代の変わり目の絶対に負けられない闘いは、当然のようにこれまでにない戦術がぶつかりあう死闘となって、その凄まじいこと凄まじいこと。

スポーツ観戦、特にモータースポーツのような技術の側面が強いものを見ていて、一番面白いのはルールが変わった時と、ブレイクスルーが起きた時だと思うのです。収束しつつあった定石がリセットされて、色々なチームが全く新しいアイデアをぶつけ合う混沌の時は、何がどうなるのか全く先が読めず、ただ新しいものが見られることへのワクワク感が半端なくて。

この巻は、まさにそういうワクワクが、もう毎試合が最終回なんじゃないかというくらい熱い展開山盛りで怒涛のように押し寄せてくる訳で、そりゃあ面白くないわけがない。ただ、これは本来セオリーもルールも存在しない架空の競技で、それなのに時代の変換点の目撃者になることに作中の人々と同じように興奮できるのは、ここまでの試合と、そしてキャンプでのアデーレvsケイトリンの闘いがあってこそだと思います。気がついたらストライクフォールという競技のファンだったし、シルバーハンズを必死に応援している自分がいる、みたいな没入感。これはちょっと凄いなと思いました。

慣性制御というパラダイムシフトによって2巻であんな事件が起き、この巻でも政治的な動きは大きなうねりとなっています。それはもちろんストライクフォールと切り離せず、実際雄星がテロの現場でコントラクターでやったことは、もう戦争に片足を突っ込んでいる。

でも、その中でもこの戦争に近い競技を、スポーツとして、スポーツだからこそできる闘い方で闘い抜く選手たちの姿は、戦争とスポーツという2つのテーマを掲げたこのシリーズが、人々の熱狂と共に、ここで見せつけなければいけないものだったのかなと、読み終えてしばらくしてから思いました。抜群に面白かったし、凄い一冊でした。

苺ましまろ 8 / ばらスィー

 

苺ましまろ(8) (電撃コミックス)

苺ましまろ(8) (電撃コミックス)

 

 現物を見るまでは信じないぞ! と思っていたけれど、本屋に行ったら現物が並んでいたのでマジだ……となった4年半ぶりの苺ましまろ新刊。

初めは可愛いから読み始めたような記憶があって、実際可愛いしいつもながら女児服への執念を感じるこだわりがヤバいんですが、そんなことよりギャグマンガとして相変わらず最高に面白いです。低体温な空気と無駄な勢いとシュールさが可愛い絵柄と奇跡的にバランスが取れないまま同居しているこの感じ、苺ましまろだなって。宇宙人美羽の回で爆笑してからの次の回のオチとかもうズルい。

最後の話は最早マンガであることを放棄している盛大な手抜きなのか、ネタなのか、なんなのかよく分かりませんが、そんなところも含めて苺ましまろの新刊だありがたやと思えたので良い読書でありました。次は5年後かな……。