空色パンデミック 4 / 本田誠

空色パンデミック4 (ファミ通文庫)

空色パンデミック4 (ファミ通文庫)

何を信じていいのか、どこまでが現実なのか。3巻かけて徹底的に壊し尽くした足場を、もう一度確かめるためのシリーズ最終巻。
空想病に関わり振り回され続けて、崩れていった仲西景の精神。現空混在病となって幻想と幻聴に悩まされ、精神が仲西景と野中空、そしてピエロ・ザ・リッパーに分かたれる状態にまで至った景の様子を視点を変えながら描いていくのですが、主人公である景から既に幻想と現実の境界が奪われているだけに、現実らしき世界と精神世界をたゆたうその描写は断片的で、完全に地に足が付いていない感じ。足場を壊し尽くした結果として、宙に浮いたまま進んでいく物語の気持ち悪さは読んでいてきついものがあります。
空想病を元にした舞台、その準備をすすめる景や青井たちというストーリーは確かに進んでいるように感じるのですが、それすらなにか向こう側の世界の話というか、数ある幻想の一つに思えるような感覚。視点が景以外にも移るので何とか信じることができますが、これが景の視点のみで構成されていたら、一体どうなっていたのだろうという感じです。
そしてそんな状態のままに進む物語は、全てを信じられなくなって内側にこもった景が、もう一度自分の建っている場所を確かめて、何かを取り戻していくラストへと進んでいきます。考えすぎるなというシンプルなメッセージは、何が現実かではなく、何を現実と思うのかが大事であるという結論へ。今そこにいる君さえもクーソーとなり、自分の精神から形作られたはずのセカイにまで裏切られて、それでも自分はここにいるというそれだけの感覚を信じること。
たとえ、自分を含めた何もかもが嘘だったとしても、自分が信じる自分を信じるという無根拠の絶対肯定を足場に、もう一度世界と対峙する。あらゆるものの無価値さを前提として、自らの手で色をつけていく事を選ぶその結論は、正直生きづらく苦しいものだと思います。それは、当たり前に与えられるはずだったものを、自分の手で創らなければいけないということだから。それでも、「何もなさ」を直接的にその身に刻まれた主人公にとって、それだけが歩むための導であり、そう信じたからこそ彼の隣には穂高結衣がいるのだと感じました。
これは、現実を空想が塗り替える空想病という設定を軸に、自分が認識する世界とは何なのかを追いかけ続けたシリーズだったのかと思います。その果てとしてのこの結論は、少し無理やりな着地のさせ方な気もして、小説としては小さくまとまってしまったという想いもあります。けれど、そこまで含めて、これは縋るべき価値観を失った時代を映した、切実な物語でもあったのかなと思いました。