【マンガ感想】MAO 1-3 / 高橋留美子

 

MAO (3) (少年サンデーコミックス)

MAO (3) (少年サンデーコミックス)

 

 高橋留美子新連載は現代の女子高生菜花と、平安時代から大正時代までを生きてきた陰陽師の摩緒が、時間を超えて出会うところから始まる物語。時を超える妖怪ものは犬夜叉という大巨編がありましたし、前作である境界のRINNEがゆるっとしたコメディだったので、ここから週刊誌連載でシリアスものが始まることにまずびっくりしたのですが、これが非常に面白いです。

菜花がかつて両親を失った大事故、摩緒に妖と言われた彼女自身の謎、摩緒の追う妖怪、つながった時間、迫る関東大震災と、謎で引っ張っていくストーリーなのですが、その謎をどんどん解き明かしていくハイスパート展開が特徴的。当然明かしきれば話が終わってしまう訳ですが、明かされたところから次の謎に広がっていくので、展開に一気に引っ張られます。この引きの強さと、緩急自在で流れるような展開は流石。癖の強いサブキャラたちもるーみっく作品らしく、菜花の動じない性格も良い感じ。

このペースでどこまで進むのか、果たしてどのくらいの長さの連載になるのかもまだ見えないですが、まずはこのジェットコースター的な展開を楽しんでいきたいと思います。キャラクターも徐々に増えつつあり、次巻も楽しみです。

【小説感想】カブールの園 / 宮内悠介

 

カブールの園 (文春文庫)

カブールの園 (文春文庫)

 

 アメリカに住む日系三世の女性が、自分のルーツをたどるように、反目していた母の元を、そして祖父母のいたマンザナー強制収容所跡を訪ねる「カブールの園」と、アメリカの地で2人取り残された日本人姉弟がどう生きたかを描く「半地下」。どちらも2つの文化を抱えて生きていくことを、とりわけ日本語と英語という2つの言葉にフォーカスを当てながら描いた短編になっています。

私は、エンタメに振っていない宮内作品はよく分からないけどなんだか凄かったのような感想を持つことが多かったのですが、これはシンプルかつストレートで非常にわかりやすく、それ故に研ぎ澄まされた感じがありました。

「カブールの園」の自分探しロードムービー的な展開、かつて遠ざけた老いた母との再開、そして自分のルーツにある日本人収容所に残された、伝承されなかった日本語による文芸との出会い。PTSD治療を受けていた彼女をゆっくりと解きほぐすように、どこか淡々と描かれていくその先で、あまりにもどうしようもないものを見つけてしまうこの感じ。突きつけられたわけじゃなく、追い詰められたわけじゃなく、まるで空気のように周りにある、アメリカで日本にルーツを持つものが生きる限り、これからもあり続けるもの。当然のように身動きを縛るそれが、ゾッとすることさえ許さない現実として浮かび上がる切れ味が凄かったです。

「半地下」もアメリカで生きる日本人の話ですが、「カブールの園」のレイが虚構のオリエンタリズムを纏って日系人として自分を演出し続けることを選んだように、アメリカで孤児となった姉弟の姉は世界最大のプロレス団体で、己の境遇すらもエンターテイメントのパーツとして生きる手段に変えていったことが印象的でした。すべて虚構だと分かって、その上に自分のあり方を作って、それでも現実はずっとその裏側にあって、時に手を伸ばしてくる。彼女がこの地でそうやって生きたこと、そういう生を選ばさせられ、演出されたことをどう捉えるかは色々あると思うのですが、個人的には、最終的に事故死さえも虚構に飲み込んでいった狂気に、どうしても惹かれるものを感じました。

これが大がかりな現実逃避なのか、それとも現実に対するカウンターなのかはわからない。現実程度、ひっくるめて虚構に取りこんでやる 。そう宣言するエディの声が聞こえてくるようだった。

2019年の8作(マンガ)

SPY×FAMILY / 遠藤達哉

SPY×FAMILY 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

SPY×FAMILY 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 遠藤達哉の新作が読めて、しかも最高に面白いなんて、こんなに幸せなことはないです。

【マンガ感想】SPY×FAMILY 1 / 遠藤達哉 - FULL MOON PRAYER

 

まちカドまぞく / 伊藤いづも

まちカドまぞく 5巻 (まんがタイムKRコミックス)

まちカドまぞく 5巻 (まんがタイムKRコミックス)

 

 アニメが大変良かったのですが、原作はその先が本当に最高なので読んでください。お願い。伏線回収の巧さが光ります。

【マンガ感想】まちカドまぞく 1~5 / 伊藤いづも - FULL MOON PRAYER

 

彼方のアストラ / 篠原健太

彼方のアストラ 全巻合本版 (ジャンプコミックスDIGITAL)

彼方のアストラ 全巻合本版 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 これもアニメから。少年少女が自分自身を見つける宇宙漂流&冒険もの。ど王道を行く面白さがありました。

【マンガ感想】彼方のアストラ 1-5 / 篠原健太 - FULL MOON PRAYER

 

私に天使が舞い降りた! / 椋木ななつ

私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス)

私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス)

 

 こちらもアニメから。私はひなノアの尊さを人々に伝える仕事につきたいですね……。

【マンガ感想】私に天使が舞い降りた! 1-5 / 椋木ななつ - FULL MOON PRAYER

【マンガ感想】私に天使が舞い降りた! 6 / 椋木ななつ - FULL MOON PRAYER

 

やがて君になる / 仲谷鳰

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

  • 作者:仲谷 鳰
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: コミック
 

 美しいフィナーレから最高のエピローグ。こんなごちそうさまですとしか言いようがない、良いものを読ませていただきました。

【マンガ感想】やがて君になる 7 / 仲谷鳰 - FULL MOON PRAYER

【マンガ感想】やがて君になる 8 / 仲谷鳰 - FULL MOON PRAYER

 

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149  / バンダイナムコエンターテインメント・廾之

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149(5) SPECIAL EDITION (サイコミ)

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149(5) SPECIAL EDITION (サイコミ)

  • 作者:廾之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/05/30
  • メディア: コミック
 

 驚くほど細やかなキャラクター描写と丁寧なストーリー。最高のコミカライズで感謝しかありません。アイマス知らなくても面白いと思うので、もっと読まれてほしい。

【マンガ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 5 / バンダイナムコエンターテインメント・廾之 - FULL MOON PRAYER

 

1518! イチゴーイチハチ!  / 相田裕

1518! イチゴーイチハチ!(7) (ビッグコミックス)

1518! イチゴーイチハチ!(7) (ビッグコミックス)

 

 挫折から始まる生徒会系青春物語完結。本当に最高の青春でした。

【マンガ感想】1518! イチゴーイチハチ! 7 / 相田裕 - FULL MOON PRAYER

 

進撃の巨人 / 諫山創

進撃の巨人(30) (講談社コミックス)

進撃の巨人(30) (講談社コミックス)

  • 作者:諫山 創
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/09
  • メディア: コミック
 

 なんだかもう凄いことになっててよく分からないのですが、とにかくとんでもないことになっている進撃。来年完結? 本当に!?

2019年の8作(小説)

なめらかな世界と、その敵 / 伴名練

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 どの作品を読んでも見事で天才か……と思った短編集。本当に美しい話を書く人だなと思います。そして姉妹百合への並々ならぬ情熱を感じる。「アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー」収録の「彼岸花」も素晴らしかったです。

【小説感想】なめらかな世界と、その敵 / 伴名練 - FULL MOON PRAYER

 

りゅうおうのおしごと / 白鳥士郎

りゅうおうのおしごと! 11 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 11 (GA文庫)

 

 10巻も凄かったのですが、もうとにかく11巻の姉弟子の話が凄まじかった。空銀子というキャラクターを証明して、絶対に好きにさせる圧倒的熱量。

【小説感想】りゅうおうのおしごと! 10 / 白鳥士郎 - FULL MOON PRAYER

【小説感想】りゅうおうのおしごと! 11 / 白鳥士郎 - FULL MOON PRAYER

 

夏の終りに君が死ねば完璧だったから / 斜線堂由紀

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

 

 言葉で示せないものを証明するための、彼と彼女のひと夏。胸を抉る、鋭く、美しい物語でした。

【小説感想】夏の終わりに君が死ねば完璧だったから / 斜線堂有紀 - FULL MOON PRAYER

 

賭博師は祈らない / 周籐蓮

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

  • 作者:周藤 蓮
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫
 

 シリーズ完結。たどり着いた仮初の幸福という欺瞞を打ち捨てるトゥルーエンドといった趣。素晴らしい結末でした。

【小説感想】賭博師は祈らない 5 / 周藤蓮 - FULL MOON PRAYER

 

吸血鬼に天国はない / 周籐蓮

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

  • 作者:周藤 蓮
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/10
  • メディア: 文庫
 

 そして新シリーズ。前作と似た仕立てで、なりふり構わず一歩踏み込んだようなお話になっていてとても好き。鮮烈なビジュアルイメージが残るシーンが多いところも良いです。

【小説感想】吸血鬼に天国はない / 周藤蓮 - FULL MOON PRAYER

【小説感想】吸血鬼に天国はない 2 / 周藤蓮 - FULL MOON PRAYER

 

 ロード・エルメロイII世の事件簿 / 三田誠

ロード・エルメロイII世の事件簿 4 「case.魔眼蒐集列車(上)」 (角川文庫)

ロード・エルメロイII世の事件簿 4 「case.魔眼蒐集列車(上)」 (角川文庫)

  • 作者:三田 誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: 文庫
 

 最初はそんなにかなと思っていたのですが、魔眼蒐集列車でグッとアクセルが踏み込まれたような印象。あれもこれも盛りだくさんのエンターテインメントで面白いです。

【小説感想】ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 2,3 「case.相貌塔イゼルマ 上・下」 / TYPE-MOON・三田誠 - FULL MOON PRAYER

【小説感想】ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 4,5 「case.魔眼蒐集列車 上・下」 / TYPE-MOON・三田誠 - FULL MOON PRAYER

 

どうかこの声が、あなたに届きますように / 浅葉なつ

どうかこの声が、あなたに届きますように (文春文庫)

どうかこの声が、あなたに届きますように (文春文庫)

 

 ラジオという仕事を通じた挫折からの再生の物語。主人公がとても魅力的!

【小説感想】どうかこの声が、あなたに届きますように / 浅葉なつ - FULL MOON PRAYER

 

虚構推理 スリーピング・マーダー / 城平京

虚構推理 スリーピング・マーダー (講談社タイガ)

虚構推理 スリーピング・マーダー (講談社タイガ)

  • 作者:城平 京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: 文庫
 

 満を持してあらわになった、人と怪異の調停者である岩永琴子の特殊性。続きが恐くもあり、楽しみでもあります。

【小説感想】虚構推理 スリーピング・マーダー / 城平京 - FULL MOON PRAYER

2019年に触れた10の沼

だんだん新しいものに触れることが少なくなってきて老いを感じますが、水面で遊んでたはずがなんか沈んでるな? って気づくことが増えた昨今ではあります。

 

1.的場梨沙


THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 8周年特別企画 Spin-off!

はるりさ好きなんですよねというテンションから、一推しははるりさですまで突き落とされたU149連載開始から気づけば数年。総選挙でボイスを望みうる位置で惜敗したあれやこれやの前半戦を超えて、ナゴドでspin-offのPVに泣きましたよね。登場と同時にショットガンぶっ放すとは思わなかったけど、いやむしろそれでこそ的場梨沙か。そしてそこから怒涛の供給がね、スピンオフアニメ、CD(ソロVerあり)、デレラジにデレパ出演、今までに無い量のイラストがTwitterに溢れて、はるりさの中の人たちがデートに行き、そして満を持してU149の的場梨沙編が始まりちょっと気持ちが追いつかない。来年はきっとライブにも来るでしょうし、もしかしたらユニット曲だって、ももぺあべりーでもビートシューターでも、できればビートシューターがいいけど、欲を言えばどっちも欲しいし何ならニューイヤースタイルも2人声つけてほしいくらいだけど、とにかく楽しみだし、死が約束されているなと思います。

ところで私のシンデレラガールズの推しカプはビートシューター(結城晴&的場梨沙)とソルカマル(ナターリア&ライラ)とミスフォーチュン(鷹富士茄子&白菊ほたる)なんですが、この一年で声付きが2/6から5/6になったんですよね。幕張のかこほた最高だったし、ナゴドでナタも見れたし、もうね、確変にもほどがあったんじゃないか2019年。しれっとライラさんも喋らないか2020年。

 

2.RAISE A SUILEN


【公式】RAISE A SUILEN「EXPOSE ‘Burn out!!!’」ライブFull映像【Poppin'Party×SILENT SIREN 「NO GIRL NO CRY」DAY2】

RASとしての初ライブだった去年の両国でこれは楽しいぞと思ってから一年。予感は確信に変わり最高が生まれた、みたいな今年のRASの活動でした。バンドリは相変わらずポピパもロゼも追いかけてるけど、ライブならRASが群を抜いて好き。

とにかくテンション上げることしか考えていないようなデジタルロックに乱れ飛ぶレーザー光線、暴れまくるギターとキーボードとDJがいて、それを支えるドラムと真ん中でどっしりと構えるベースボーカルにはプロミュージシャンを配するというバランスは偶然の産物だろうけど神がかっているなと。キャラクターというか、RASというものをどう表現するかを意識したライブパフォーマンスや、Raychellの落ち着きのあるカッコいい歌声と紡木吏佐のアニメ的にキュートで挑発的なラップの絡みが、バンドリというコンテンツ発だからこその個性になっていて最高に好きです。

あとはもうとにかくライブ見に来てください。楽しいよ!

 

3.プリンセスコネクト!Re:Dive


『プリンセスコネクト!Re:Dive Lost Princess ~ようこそ美食殿へ!~』ダイジェスト試聴

気がついたら1年毎日続いているし、思ってたよりずっと好きだなプリコネ。相変わらずUIは優秀で、ストレスは少なく(当社比)、適度なゲーム性もあるとっつきやすさと、適度に雑で適度に狂っていて適度に趣味の悪いシナリオが非常に性に合います。全てが適度。相変わらず走り続けることを強いられているけど。あと今年は何故か出演したアニサマも最高でしたね。

そしてまあ何よりペコキャルですよ。メインストーリー読みました? ペコキャル最後まで公式じゃないですか。しかもめっちゃ推されてる。ヤバいですね。太陽と月のカップリング最高じゃないですか……。

ストーリーは蒼井翔太討伐レイドイベントを経て第一部完しましたが、真ボスがあの人ならまだ色々ありそうで楽しみにしています。世界改変のかけ方が日日日っぽくていいよいいよってなる。

 

4.ストレイライト


【試聴動画】THE IDOLM@STER SHINY COLORS FR@GMENT WING 06

シャニマスとは距離をおいて生きていたい、そう思っていた時期もありました。

いやー、ストレイライトがね、ストレイライトが登場とともに明らかに好みで。というかあさふゆのカップリングが完全な好きな天才と秀才の組み合わせでこれは危険だと思いながら耐えていたのですが、曲がね、Wondering Dream Chaserが優勝してしまいもうだめでした。

シャニマスってプロデュースするゲームで、私はPになりたい訳じゃなく推していたいだけなんだよなというのがシャニマスとの距離感でもあったのですが、なんと! ストレイライトはステージ上との二面性のアイドルなので、Pにならないと美味しいところが楽しめないんですね!! 巧妙な罠!!!

ということでストレイライトだけはプロデュースも頑張っています。Trueがなかなか見れない。ファン感謝祭ストーリーと冬優子SSRのTrue End、望まれていたものがそのままお出しされた感じで最高でしたね……。

 

5.私に天使が舞い降りた!

年に1作くらい毎週何度も繰り返し見てしまうアニメがあったりなかったりするのですが、今年のそれがわたてんでした。

全面にベッタベタに砂糖をまぶしたような甘く優しい世界に、耳に残る長江里加の「みゃー姉!」のキャッチーさもありつつ、なんかこれちょっとやばいんじゃないみたいなものが見え隠れするのが大変好み。主にみゃー姉絡みとか百合的な関係性とか。かのこよ共依存もなかなかですが、特にひなノアがですね、これもまた太陽と月のカップリングで最高でしたね……。みゃー姉なりきりセットの時のノアのヤバさからの、ひなノアデート回の破壊力。ひなた本当にそういうところだぞ! っていうね。ひなノア本当にね、このまま高校生くらいになって、ひなたがノアから向けられている感情に気づいた時のひなノアが読みたいって言ったら、自分で書けって言われました。ぐぬぬ

 

6.天気の子


映画『天気の子』スペシャル予報

令和元年にお届けされたゼロ年代からのアンサー。

最高の映像&音楽のクオリティで、あの頃の少年と少女の物語が、細部までのエクスキューズをつけながら描かれて、ラストで明確に「間違った」選択をし、その上で作品としてはそれを肯定するってパーフェクトじゃないですかこんな。映画館で上映後しばらくうずくまってたわ……。

何となくうやむやな感じで収束したあの頃の空気を、実はあれはメジャーなものだったんじゃないかと言いながらこの完成度で現在に提示して、興行収入140億の国民的大ヒットにされちゃったらもう新海誠もの凄い以外に何も言えることはないです。凄い。

 

7.少女☆歌劇 レヴュースタァライト


「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」レヴューアルバム「ラ・レヴュー・エターナル」収録曲「追って追われてシリウス」試聴Ver.

スタリラのゲーム自体はあまり触らなくなってしまったのですが、その新しい学校も含めてのレヴューアルバムとなった「ラ・レヴュー・エターナル」と、それを引っさげての3rdライブが大変良かったスタァライト。物語性の強い楽曲をCDでリリースして、ライブで実演するという形式めっちゃ好きなんです。九九組の曲もそうなんですが、演劇要素強く入ってくるライブパフォーマンスがとてもツボで。曲も予想外の方面に攻めたものになっているのも面白いですし、ライブだとなるほどこういうことになるのかという答え合わせができて楽しい。

あと3rdライブ、三森すずこが九九組のライブに出れなかったことによって、愛上華恋と露崎まひるがほとんどの曲でペアを組む、まひるの夢の世界線が現出していて凄かった。そしてそこから満を持してのひかりの登場にこれが運命の2人……となるところまで含めて、偶発的なものでしょうが「削劇 神楽ひかり」が完璧に成立していて、ステージは生物っていう、作品のコンセプトが浮かび上がるのとても良かったです。

 

 

8.HiGH&LOW THE WORST


映画『HiGH&LOW THE WORST』Special Trailer【鳳仙学園】

ハイローのスピンオフ、鬼邪高メインだとそこまで好みではないかなと思っていたのですが、蓋を開けたらハイロー史上一番ちゃんとした脚本(その分ハイローらしいぶっ飛びは控えめ)で魅力的なキャラクターたちが縦横無尽に躍動する映画になっていて面白かったです。

もう映画の冒頭でスキンヘッド軍団がTop Downに合わせて電車を降りてくるシーンでテンション爆上げな訳で。それぞれのキャラクター、それぞれの勢力にテーマソングにのせての見せ場があって、やっぱ最高だなって。村山のEND OF SKYとしても完璧だったし、他のキャラたちもちゃんと全員主人公してたし、あとさっちーめっちゃ顔が良いですよね……鳳仙良かった……。

 

9.梶浦由記

Dream Field

Dream Field

  • アーティスト:See-Saw
  • 出版社/メーカー: flying DOG
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: CD
 

 Kalafina含め事務所関連のゴタゴタから早1年。まあ色々あり、ファンとしても思うところもあったのですが、フリーになった梶浦さんが、本当にやりたいことを自由にやっているように見えて、その結果としてこういうものが見られるなら良かったんじゃないかなと、そう思うようになりました。

See-Sawね、ライブで見られるだなんて、去年の今頃はこれっぽちも思ってなかったから。本当に。

あとYK Liveは更に活発になり、Aimerが来て「I beg you」が聞けたし、Keikoが歌姫sに復帰したし、来年はゲストにHikaruが来てKalafinaのカバーをしますって。ああこれからも進み続けていくんだなと、大好きな梶浦由記の音楽をこれからも追いかけていく事ができるんだなと、噛みしめるような一年でした。

 

10.大橋彩香


大橋彩香 9th single「ダイスキ。」Music Video (full ver.)

最後はやっぱりへご。

ポピパではドラムを叩きロックフェスにも出て、他コンテンツでも歌にダンスに演技にと八面六臂の活躍。個人としてのライブは年1回でしたが、それも素晴らしい出来だった去年のパシフィコを上回る最高更新ライブで追いかけててよかったなと思わせてくれるうちの推し。

推しが見る度に凄くなっていくの、本当に幸せなことだなと思います。

【小説感想】吸血鬼に天国はない 2 / 周藤蓮

 

吸血鬼に天国はない(2) (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない(2) (電撃文庫)

  • 作者:周藤 蓮
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 文庫
 

 ドラマチックでロマンチックな話は前の巻で終わっているのだから、自分に課したルールと諦念の中で生きていた男と人間の理の外にいた吸血鬼の女は、じゃあ実際この先どうするのよと、そういう話になる訳で。ならば、前シリーズで物語に対してああいう真摯さ、ある意味での潔癖さを見せた作者が、人を喰らう吸血鬼と人間の2人に仮初の安寧を許すわけがないよなあと。

運び屋としての己の定義を捨てたシーモアと元より定義の外にあったルーミーが、人の社会の中に生身で放り出され、それでも生きていくならどうなるのか。物語の大枠は「賭博師は祈らない」によく似ていて、けれど曲りなりにもヒーローとヒロインだったラザルスとリーラに比べこの2人はずっと難しくて、その2人が悩んだり追い詰められたりするのが話の中心なのだから、これがなかなか難儀です。賭博勝負のようにわかりやすい見せ場が用意されるわけでもないですし。

ただ、そういう分かりやすさを投げ捨てて、綺麗にまとめるではなく、粗くても踏み込んだ感じが私は好きです。分かりあえなさと閉塞感と消えない暴力の気配の中で、触れたところだけが温度を持っているような2人のあり方も、関係も、本当にどうしようもなくて、そのくせに潔癖で、青くて暗い中に鮮やかさがある感じがとても好み。

今回の話は世界唯一の吸血鬼が前巻の出会いを通じて人間というものに何を見たのか、そして彼女自身どうありたいと思ったのかを描くものだと思います。彼女が恋して憧れた人の純粋性と、人を糧にしないと生きられない吸血鬼であるということの矛盾。それは、ルーミーが人とどう対するかだけの問題であって、転がり込んできたバーズアイ姉妹も、幻想に全てを費やしてきた吸血鬼狩りも、死神と呼ばれた殺人者さえも、言ってしまえばシーモアだって人間のうちの一人でしか無い。

ルーミーを生かすために彼女の罪を許して縛ったと考えていたシーモアとはそこがずっと噛み合わず、けれど一緒にいることでお互いに影響は与えてはいる。そんな不安定な状態の果てに、彼女には飢えという限界が来ます。そんな望み、最初から成り立つわけがなかったとばかりに。

生まれて間もない吸血鬼が「人間の純粋性」なんて概念に恋をして、概念でしかない吸血鬼を追い続けたある意味純粋な一族の末裔と対峙する。運命を分けたのはそこに殉じて死ねるのか、それでも生きたかったのか。シーモアがルーミーに行った提案は、純粋に生きられない人間が、それでも生きていくためのちょっとした魔法で、2人の関係に持ち込まれた少しのズルみたいなものかなと思います。ひたすら真面目に考え抜いた末に、普通の恋物語にこんな捻れたところから着地するのが、この作品らしくてとても良いなと思いました。

とはいえ、それはあくまで抜け道であって、それを幼さからの脱却だと肯定できるかというと、この作品はそれをきっと許してはくれないのだろうなとも思います。考えるほど吸血鬼と人間は一緒に生きてはいけないとしか思えない中で、2人の物語にいったいどういう折り合いがつけられるものなのか。不安もありますが、楽しみに待っていたいと思いました。

【小説感想】ゲームの王国 上・下 / 小川哲

 

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

 
ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

 

 読み終わって正直どう解釈すればいいのか分からないところはたくさんあるのですが、いやしかしこれはなんだ凄い小説だったなと。圧倒されるような熱量と密度。様々な要素が溶け合った混沌から生まれた奥行きというか濃度というか、なんだか凄いものを読んだという感触の残る物語でした。

舞台はカンボジア。まずカンボジアという国のこともポル・ポトの時代も不勉強にも知らなかったのですが、上巻で描かれる革命前夜の空気感漂う秘密警察の時代から、クメール・ルージュによる革命、そして原始共産主義という理想のみで突き進んだそれが導いた崩壊まで、帯コメントにもある通り見てきたかのように描かれていて凄いです。

革命の起きる都市部、呪術的な暮らしの中にある農村、様々な登場人物たち、暴力、虐殺、どこまでも降りかかる不条理の嵐。その時代の中にあった人々の記憶を饒舌に滑らかに語っていくので、まさに自分がその体験をしてきたかのような気持ちにさせられます(カンボジアのことなんて何も知らなかったのに)。勢い余って、古来から歴史を語り継いできた人々っていうのはこういうふうに話をしてきたんだなと思ったりするのですが、でもこれフィクションで言ってみれば法螺話のありもしない歴史な訳で、それをこんなふうに語ってしまうのが小説家なのだなと。

下巻に入るとうって変わって近未来。荒れ狂う時代を生き抜いた、一度だけゲームをした記憶で繋がれたソリヤとムイタックの2人。ソリヤはこの国というゲームはルール自体が誤っていると考え政治家を目指すも、正しいことをするために積み重なる正しくないことに直面し、ムイタックはその道は間違いだとしてソリヤを止めんと脳波を用いたゲームの開発に没頭します。

世代は変わり、様々な人たちが関わりあい、時代はうねって、2人は駆け抜けた。そのゲームになんの意味があったのか、この物語は何を伝えたいものなのか、私には分からないことも多かったのですが、あっけない幕切れは、人生は往々にしてそういうものであるのかなとも。何かを語るために物語があるというよりも、そういう時代があり、そういう場所があり、そこに生きた人たちがいて、その記憶が積み上がって今ここに物語があるのだと、そんなふうに感じた一冊でした。